「データ移行の案件に入ることになりました。夜間や休日も多いと聞きましたが、実際どのくらいきついのでしょうか」。SESの営業から案件を提示されたとき、こう感じる人は少なくないはずです。
私は3社目の約1年、金融系のWebサイトの刷新で、旧システムの顧客・契約データを新システムへ移す、リハーサルと本番切り替えの実施を担当しました。対象は数百テーブル・数百万件以上で、本番の切り替えは連休をまたいで24時間以上かかりました。
今回は、実施役として何がきつく、どう備えれば楽になるのかを、実体験と一般的な移行の考え方を分けながらお伝えします。
この記事で分かること
- データ移行案件のきつさの正体は、作業量より「時間の拘束」と「止められない緊張」だったこと
- 切り替え当日の一般的な流れと、実施役が受け持つ範囲
- 移行リハーサルの目的と、3〜4回やる理由
- データ検証の種類と、切り戻し(元に戻す判断)の考え方
- 夜間・休日の負担と、向く人・向かない人、入る前の確認事項
目次
- SESのデータ移行案件はきついのか|実施役を約1年やった結論
- 私の役割は「手順書に沿って実行する」ことでした
- 対象は数百テーブル・数百万件以上でした
- 本番切り替え当日の流れ|旧システム停止から切替後監視まで
- 切り替え当日の一般的な時系列
- 作業そのものより「待つ時間」と「終わりの読めなさ」が重い
- 移行リハーサルの目的|3〜4回やる理由とできること・できないこと
- リハーサルで潰せるもの、潰せないもの
- 移行データの検証|件数・値の不一致はどう切り分けるか
- 検証の種類と見るポイント
- 差異が出たときの切り分けと報告
- 切り戻しの判断基準|いつ・誰が・何を条件に戻すか
- 切り戻しで事前に決めておくこと
- 実施役の私が気にしていたこと
- 切り替え判定会議で実施役が報告すること
- 起きたトラブルは3種類|不一致、時間超過、手順書の誤り・漏れ
- 時間内に終わらない|遅さより打ち切りの判断
- 手順書の誤り・漏れ|一番怖いのは「書かれていない作業」
- 夜間・休日の切り替えが一番きつい理由と、体を守る工夫
- 休日出勤は振替休日で処理されました
- 深夜・休日の割増の基本
- 体を守るために気をつけたいこと
- データ移行案件に向く人・向かない人
- 移行期に身についたもの、身につかなかったもの
- 入る前に確認しておきたいこと|データ移行案件の備え方
- まとめ
SESのデータ移行案件はきついのか|実施役を約1年やった結論
まず結論を示します。そのうえで、私の役割と現場の規模を書きます。
結論きついのは、作業の難しさより「夜間・休日に長時間、止められない作業を受け持つこと」です。ただし、リハーサルを重ねる設計の案件なら、本番の前に見通しは立てられます。
私の役割は「手順書に沿って実行する」ことでした
3社目は二次請けの現場で、前半約1年がデータ移行、後半約1年半がWebサイトの保守改善でした。データ移行チームでの私の担当は、手順書に沿って、リハーサルと本番切り替えを実行する役です。
手順書のステップを順に実行して、結果を記録し、ずれがあれば報告します。自社の人間は、移行期は私1人でした。
画面や機能を作る仕事ではないので、担当しているのは「作る」より「動かす」ことです。この違いが、後で書く向き不向きに効いてきます。
対象は数百テーブル・数百万件以上でした
規模と切り替えの条件を並べると、次のようになります。
私の現場の規模と条件です。正確な件数や時間は、客先の情報につながるため伏せています。
データ移行は、旧システムを止めてから新システムで業務を再開するまでを、決められた休止期間に収める作業です。だから本番は、連休のような長い休みに置かれ、夜間も休日も作業が続きます。
本番切り替え当日の流れ|旧システム停止から切替後監視まで
切り替え当日は、決められた順番を、決められた時間内にこなしていく作業です。私の現場では連休を使い、24時間以上かけて複数日にまたがりました。ここでは一般的な流れを示したうえで、実施役として感じた負担を書きます。
切り替え当日の一般的な時系列
移行方式や会社によって細部は変わりますが、一般的な流れは次のように整理されます。私の現場の時刻表ではなく、考え方の骨格です。
- 旧システム停止更新を止める
- 最終データ取得停止後の状態を確定
- ロード新システムへ流し込み
- 突合件数・値を照合
- 判定進めるか戻すか
- 新系開放・監視業務再開と見守り
旧システムを止めた時点が、休止期間のカウントダウンの始まりです。ここから先は、業務が止まっている時間を少しでも短くしたいという圧力の中で作業が進みます。
私の担当は、手順書のステップを実行して結果を記録し、ずれがあれば報告することでした。判定そのものは実施役の仕事ではなく、結果を判定する人に正しく渡すところまでが、私の責任範囲でした。
作業そのものより「待つ時間」と「終わりの読めなさ」が重い
意外だったのは、手を動かしている時間より、ロード処理が終わるのを待つ時間のほうが長いことです。件数の多いテーブルは、流し込みだけで長い時間がかかります。
その間にやることは、進捗を見て、結果を記録するくらいです。ただ、トラブルが起きたら即座に判断を仰ぐ必要があるので、席を離れて休むわけにもいきません。
体を動かす仕事の疲れと、待つ仕事の疲れは、種類が違います。待つ仕事は、眠くなるのに気を抜けない疲れでした。
24時間以上の体感
作業量そのものより、終わりの時刻が読めないことが疲れを増やしました。確認や再実行が入るたびに終了が後ろへずれるので、気持ちの置き場がなくなります。
切り替えやリハーサルの日は出社でした。リモートが週1〜2日あった現場ですが、切り替えの日だけは、その枠の外にありました。
移行リハーサルの目的|3〜4回やる理由とできること・できないこと
リハーサルは、本番を想定した通しの実行です。私の現場では3〜4回ありました。回数が多いのは、それだけ本番で失敗できないからです。
各回の細かい中身は客先の情報につながるので書きませんが、リハーサル全般の目的は、一般的に次のように整理されます。
移行リハーサルの目的(一般的な整理)
- 手順書どおりに実行して、誤りや漏れを洗い出す
- 全体の所要時間を測り、休止期間に収まるかを確かめる
- 移行後のデータが一致するか、検証の方法そのものを確かめる
- 役割分担や連絡の流れが、実際に回るかを確かめる
- 切り戻しの手順が使える状態かを確かめる
回を重ねるごとに、前の回で見つかった問題が手順書に反映されて、次の回に持ち越されます。だから実施役の私にとって、リハーサルは本番の予行であると同時に、手順書を本番に耐える形へ直していく場でもありました。
リハーサルで潰せるもの、潰せないもの
私の体感では、リハーサルで潰せるのは「本番と同じ条件の問題」です。手順の抜け、順番の誤り、所要時間の見積もりのずれは、リハーサルで見えてきます。
一方で、環境の差で出る問題は、本番で初めて出ることもあります。リハーサルは本番の保険であって、保証ではないと考えていました。
だから、リハーサルがどのくらい本番に近い条件で行われるかは、入る前に聞いておきたい点です。回数だけ多くても、条件が違えば、安心の度合いは変わります。
移行データの検証|件数・値の不一致はどう切り分けるか
データ移行で最も神経を使うのは、移行後のデータが正しいかを確かめる検証です。私の現場でも、件数や値の不一致は起きました。1件でも合わなければ、突合は不合格として扱われました。
検証の種類と見るポイント
検証には、一般的にいくつかの種類があり、組み合わせて使われます。
| 検証の種類 | 見るもの | 見つけやすい問題 |
|---|---|---|
| 件数の突合 | 移行元と移行先のテーブルごとの件数 | 読み飛ばし・二重登録 |
| 主要項目の突合 | 重要な項目の値そのものの一致 | 変換ミス・桁数や文字コードの違い |
| 金額・数量の合計 | 合計値の一致 | 件数が合っていても値がずれる問題 |
| サンプルの目視確認 | 数件を画面で人が見る | 機械的な突合で気づけない見え方の差 |
件数が合っていても、中身の値が違うことがあります。逆に、値の突合だけでは、行が丸ごと抜けていることに気づけません。だから、複数の観点を組み合わせる必要があります。
差異が出たときの切り分けと報告
実施役が差異を見つけたときにやるのは、原因の特定よりも、状況を整理して判断者に渡すことです。どのテーブルで、どの範囲の、どの条件のデータかを、素早くまとめて報告します。
一般に、原因は変換できない値の読み飛ばし、文字コードや桁数の違い、移行対象の条件の取りこぼしなど、データの中身に近いところにあります。切り分けの基本は、移行元の問題か、変換ルールの問題か、ロードの失敗かを分けて考えることです。
実施役として心がけたのは、分かっていることと分かっていないことを分けて報告することです。原因の推測を事実のように伝えると、判断者が誤った前提で動いてしまいます。
切り戻しの判断基準|いつ・誰が・何を条件に戻すか
切り戻しとは、新システムへの切り替えを断念して、旧システムに戻す判断と作業のことです。私の現場の具体的な基準や実際の発動については書きませんが、実施役として知っておくと身を守れる、一般的な考え方を整理します。
切り戻しで事前に決めておくこと
切り戻しの設計では、一般的に次の4点が事前に決められます。
切り戻し判断で事前に決めておくこと
- 誰が戻すと決めるのか(判断者)
- 何を条件に戻すのか(検証の不合格、想定時間の超過など)
- いつまでなら戻せるのか(戻せる期限)
- 戻すと、どの状態に、どのくらいの時間で戻れるのか
特に重要なのが、戻せる期限です。新システムを開放して業務で更新が始まると、旧システムには存在しないデータができ、簡単には戻せなくなります。だから、新システムを開放する前の判定が、実質的な最後の関門になります。
実施役の私が気にしていたこと
実施役の立場で大事だと感じたのは、判断者と基準が手順書に書いてあるかです。基準が決まっていないと、実施役は「待つのか、止めるのか」を自分で背負うことになってしまいます。
作業が予定時間を超えることは、私の現場でも起きました。作業が遅いこと自体より、どの時点で打ち切って判断するかのほうが、はるかに重要です。
入る前に、トラブル時の判断者と止める基準が決まっているかを聞く。これが、実施役の心理的な負担を大きく左右します。
切り替え判定会議で実施役が報告すること
多くの移行プロジェクトでは、新システムを開放する前に、移行の結果を確認して進めるかどうかを決める場があります。呼び方はプロジェクトごとに違いますが、ここでは判定会議と呼びます。以下は一般的な整理です。
実施役が判定会議に向けて用意するのは、一般的に次のような情報です。
- 手順書の各ステップの実行結果と、所要時間
- 検証の結果(件数・主要項目・合計値の一致状況)
- 差異があった場合の範囲と、切り分けの進み具合
- 手順書からの逸脱や、再実行があったかどうか
大事なのは、結論を出すのは実施役ではなく判断者だという点です。実施役の仕事は、事実を漏れなく正確に渡すことでした。
そのためには、作業しながら記録を残す習慣が欠かせません。あとでまとめようとすると、24時間以上の作業では記憶が曖昧になります。
起きたトラブルは3種類|不一致、時間超過、手順書の誤り・漏れ
私の現場では、「件数や値の不一致」「作業の時間超過」「手順書の誤りや漏れ」が、一通り起きました。個別の詳細は客先の情報につながるため書きませんが、不一致への対応は検証の節に書いたとおりです。ここでは、残る2つを整理します。
時間内に終わらない|遅さより打ち切りの判断
時間超過は、切り戻しの考え方とつながっています。超過が見えた時点で、どこまで待てるか、何を削れるか、戻すかを、判断者が決める必要があります。
実施役ができるのは、現在の進捗と、残りの作業の見込みを、できるだけ早く伝えることです。「そろそろ危ないかもしれません」と早めに声に出すだけでも、判断者の選択肢は残ります。
手順書の誤り・漏れ|一番怖いのは「書かれていない作業」
手順書の誤りは、実行すれば気づけることが多いものです。一方、漏れは実行しても出てこないのが厄介で、手順書をなぞるだけでは見つかりません。
だからリハーサルを重ねる意味があります。実施の中で「この手順の前後に何か必要ではないか」と疑う目を持つと、実施役でも貢献できます。
この体験の前提
トラブルの種類は、私の現場のものです。移行の方式、データベースの種類、規模によって、起きることは変わります。ここで書いたのは、実施役の立場から見えた範囲です。
夜間・休日の切り替えが一番きつい理由と、体を守る工夫
私が一番苦労したのは、夜間と休日の対応でした。理由は、作業そのものよりも、生活リズムが崩れることにあります。
3社目全体の残業は、平均で月約20時間、最も多かった月でも40時間弱で、多くはありません。ただ、その少ない時間が、特定の連休やリハーサルの日に集中するのが移行案件の特徴です。
休日出勤は振替休日で処理されました
私の休日出勤の扱いは、手当ではなく振替休日でした。出勤前に休日を入れ替えているので、休日労働にはなりません。
計算の仕組みと、割増賃金の考え方は、別の記事で詳しく書いています。
移行案件では、承認する前に、振替になるか代休になるか手当になるかを確認しておくことが大切です。日付は出勤前に決まるので、希望を伝えられるのは承認の前までです。
深夜・休日の割増の基本
夜間にまたがる切り替えでは、深夜と休日の割増の考え方を知っておくと、給与明細の確認がしやすくなります。厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、法定休日の労働は35%以上、22時から5時の深夜は25%以上の割増とされています(出典: 時間外・休日労働と割増賃金|確かめよう労働条件)。
法定休日の深夜は、35%と25%を足して1.60倍、時間外労働の深夜は25%と25%で1.50倍になります。ただし、これらは手当として処理された場合の話です。所定休日の割増率は、このページに定義が見当たらないので、ここでは断定しません。
私の場合は振替休日で処理されたので、この割増は付きませんでした。夜間の切り替えほど、どの扱いになるかで手取りが変わります。
体を守るために気をつけたいこと
きつさをゼロにはできませんが、次の3つを意識するだけで、負担は変わります。
切り替えの前後で意識すること
- 前日は早く寝て、当日は時間に余裕を持って動く
- 食事と水分は、作業の合間に時間を決めて取る(空腹で集中が切れる)
- 切り替え後の休みには予定を入れず、体を休める
待ち時間が長い作業では、仮眠が取れるかどうかも体力に直結します。仮眠できる場所や交代の取り方は、夜間の作業が始まる前に確認しておくと安心です。
予備日が置かれる現場では、その拘束がどう扱われるかも事前に聞いておくと、気持ちが楽になります。「この日だと助かる」と先に営業へ伝える余地もあるので、迷ったら早めに相談するのが得策です。
データ移行案件に向く人・向かない人
1年やってみて、向き不向きははっきりしていると感じました。実施役の立場に限った話ですが、整理します。
向いていると思うのは、次のような人です。
- 手順書どおりに、淡々と正確に実行できる人
- 結果を記録することが苦にならない人
- 待つ時間が長くても、集中を保てる人
- 夜間や休日の作業に、生活面で対応できる人
逆に、きついと感じやすいのは、設計や実装の技術を伸ばしたい人です。
移行期に身についたもの、身につかなかったもの
私自身、移行期に身についたのは、データ移行の流れです。一方、身につかなかったと感じているのは、システム全体の設計・構造の理解と、コードを書く経験でした。
身についたもの
- データ移行の流れ
身につかなかったもの
- システム全体の設計・構造の理解
- コードを書く経験
後半の保守改善では、設計から実装・テストまで一人で完結する力や、障害の原因特定、影響範囲の調査の進め方が身につきました。移行期だけだと技術面の幅が狭くなるので、その後に設計・実装に関われる見込みがあるかは、入る前に確認したいところです。
担当が変わったのは、移行プロジェクトが終わったためで、私の希望ではありません。後半の保守・改修の経験は、別の記事に書いています。
入る前に確認しておきたいこと|データ移行案件の備え方
最後に、これから入る人が、面談や入場前に確かめておけることをまとめます。
面談・入場前に聞いておくこと
- リハーサルは何回の予定か。本番と同じ条件で実施するか
- 本番切り替えは何日にまたがるか。夜間はどう分担するか
- 自分の役割は実施役か、手順書の作成にも関わるか
- 休日出勤は、振替休日か代休か、手当か
- トラブル時の判断者は誰か、止める基準と切り戻しの期限は決まっているか
- 移行が終わった後、別の工程に移れる見込みはあるか
なかでも、役割とトラブル時の判断者は、必ず聞いておくべきです。判断者が決まっていない現場では、実施役に重圧がかかります。
まとめ
SESのデータ移行案件は、きついと感じやすい案件です。ただ、きつさの正体は、作業の難しさより、夜間・休日の長時間拘束と、止められない緊張にあります。
私の現場の条件を、もう一度並べておきます。
- 対象は数百テーブル・数百万件以上。リハーサルは3〜4回
- 本番切り替えは24時間以上で、連休・複数日にまたがった
- トラブルは、件数・値の不一致、時間超過、手順書の誤り・漏れの全部が起きた
- 休日出勤は振替休日で処理。担当が変わったのは、プロジェクトが終わったため
実施役の仕事は、判断することではなく、事実を正確に動かして正確に渡すことでした。だからこそ、判断者と切り戻しの基準が決まっているかが、安心して作業できるかを左右します。
これから入る人は、リハーサルの回数・役割・休日の扱い・判断者の4点を、先に聞いてください。そのうえで、移行の後に設計や実装へ広げられるかも確認しておくと、案件の経験が次につながります。




