設計書を開くと、画面いっぱいに細かいマス目が広がっている。項目を1つ足しただけなのに、罫線も結合セルもずれて、気づけば30分たっている。そんな経験はありませんか。
私はSESで5年ほど、4社の現場を経験しました。2社目の約1年半は、設計書がほぼすべてExcel方眼紙で、三次請けとして設計から単体テストまで担当しています。今回は、方眼紙で実際に困ったことを5つと、形式を変えられない現場での付き合い方を、実体験を交えてお伝えします。
この記事で分かること
- Excel方眼紙の設計書で、現場で実際に起きた5つの困りごと
- それでも方眼紙が使われ続ける理由
- 形式を変えられない三次請けでもできる、手間を減らす工夫
- 提案してよいことと、してはいけないことの線引き
目次
SESでExcel方眼紙の設計書がつらいと感じるのは、普通のこと
結論つらさの正体は、方眼紙が「印刷したときの見た目」を基準に作られていて、編集・比較・検索のしやすさが後回しになっていることです。個人の慣れの問題ではありません。
ここでは、方眼紙とは何かを短く押さえたうえで、世間でどう言われているかと、私の現場の状況を見ていきます。
Excel方眼紙とは何か
Excel方眼紙は、セルの幅と高さを細かく揃えて、紙の方眼のように文字や罫線、図を自由に置く書き方です。レイアウトも項目表も処理説明も、1枚のシートに混ぜて置けます。
技術評論社の記事(申込書などのビジネス文書が題材です)では、方眼紙は「印刷結果さえ整っていればよい」前提の資料で、再編集に時間がかかり、ファイルも重くなると指摘されています(出典: 技術評論社)。2013年のINTERNET Watchの記事でも、ネット上で批判を受けやすい一方、日本ならではの文化と紹介されています(出典: INTERNET Watch)。
資料で指摘されている方眼紙の弱点
- 印刷結果が整っていればよい前提で、再編集に時間がかかる
- セルの結合を解除する手間が出る
- ファイルが重くなりやすい
10年以上前から「つらい」と言われ続けていて、それでもなくなっていない形式です。
私の2社目の状況
2社目の画面設計書は、画面ごとに1ファイル、1ファイルにつき12シート前後でした。受注まわりだけで47ファイルあり、元請けの標準テンプレートに沿って書く決まりです。
三次請けの私に、形式を選ぶ権限はありませんでした。できるのは、決まった形式の中でどう効率よく扱うかだけです。そこで、困りごとを順に整理していきます。
現場で困ること5つ
次の5つは、私が2社目で実際に時間を取られた順に並べています。どれも「方眼紙だから起きる」と言い切れる部分と、「運用が悪くて悪化した」部分が混ざっているので、その切り分けも添えます。
困りごと1:項目を1つ足すだけで崩れる
入場して半年ほどたった2022年春、受注登録画面に「納品希望日」という入力項目を足す改修がありました。実装は日付の入力欄と保存処理を足すだけで、約15分で終わりました。
ところが設計書の更新には約40分かかりました。項目定義の表に1行挿入すると、右隣の結合セルの範囲が崩れ、下の備考欄の罫線がずれ、印刷プレビューを見ると改ページが1枚ぶん増えていたからです。
項目1つの追加にかかった時間(2社目・自分の体感)
内容を直す時間より、見た目を直す時間のほうが長い。これが方眼紙の編集で一番ストレスになる部分です。
困りごと2:どこが変わったのか追えない
改修のたびに設計書も更新するので、レビューでは必ず「どこが変わったの」と聞かれます。2社目では、変更箇所は赤字、削除は取消線、さらに変更履歴シートにも記載する決まりでした。
この運用の弱点は、すべて手作業であることです。Zennの記事(題材はテーブル定義書です)にも、赤字・取消線・変更履歴シートで差分を管理し、レビューで赤字の消し忘れなどを指摘される例が出てきます(出典: Zenn)。私の現場でも、同じことが起きていました。
履歴シートには「項目3追加」とあるけど、本文のどこ?赤くなってないよね。
すみません、前回の改修で赤が残っていたので、いったん黒に戻したときに一緒に戻してしまいました。
じゃあ、前のファイルと見比べて探すしかないね。
原因は、リリース後に赤字を黒へ戻す担当が決まっていなかったことです。赤が累積して「今回の分」が分からなくなり、差分の確認だけで30分ほどかかっていました。
困りごと3:横断検索ができない
「納品希望日」の項目が、ほかのどの設計書に出てくるかを調べる影響調査もありました。ソースコードならIDEの全文検索で数秒ですが、xlsxはXMLをまとめて圧縮したファイルなので、grepのようなテキスト検索ツールにそのままかけても、中の文字列は引っかかりません。
私の現場では、共有サーバ上の設計書はエクスプローラーの検索でもファイル名しか探せませんでした。結局、47ファイルを1つずつ開いてCtrl+Fで探すことになり、1ファイル40秒前後で30分以上かかりました。
しかも、Excelの検索は開いているブックの範囲が基本です。シートの見落としも起きやすく、「検索したのに漏れていた」という手戻りも、一度ありました。
困りごと4:ファイル名での版管理と上書き事故
2社目では、設計書も共有サーバに日付つきのコピーを並べて管理していました。ソースの世代管理と同じ方式です。この話は別の記事に詳しく書いています。
この方式で、一度やらかしたことがあります。私が日付つきコピーを手元で編集し、元の場所へ戻したとき、同じ日に先輩が直していた3箇所を、気づかないまま上書きしてしまいました。
私の場合
気づいたのは2日後のレビューです。先輩から「直したはずの箇所が戻っている」と言われて発覚し、前日のコピーと見比べて、手作業で3箇所を戻しました。復旧に約1時間かかっています。
Excelのファイルは、2人の変更を自動でまとめてくれません。後から保存した人の内容が全部勝つので、同じファイルを触る人が複数いる現場では、構造的に起きやすい事故です。
困りごと5:重い、ずれる、機械に渡しにくい
画面イメージの貼り付けが多いファイルは、1つで23MBありました。出社日なら開くまで20秒前後でしたが、VPNで自宅から接続するリモートの日は、1分以上かかりました。
もう1つは、別のPCで開くと表示がずれる問題です。倍率やフォントの違いで、改ページの位置が動くことがありました。
また、設計書の中身を別のツールに読ませたいときにも壁があります。クラスメソッドの記事では、方眼紙は構造化されていないデータとして扱われ、MarkItDownで変換すると欠損値(NaN)だらけの表になると紹介されています(出典: クラスメソッド)。人の目には整って見える表が、機械にはただのマス目の羅列だということです。
それでもExcel方眼紙が使われ続ける理由
結論方眼紙は、作る側ではなく、受け取る側と運用のしやすさで選ばれているからです。作る側が困っていても、受け取る側が困っていなければ、形式は変わりません。
つらいだけの形式なら、とっくに消えているはずです。ここでは、私の現場で実際に見た理由を整理します。
方眼紙が残り続ける4つの理由
- 納品物の形式が決まっている元請けや客先の標準テンプレートがあり、検収の対象もその形式です。
- 印刷してレビューする客先の担当者がA3に印刷して赤ペンで確認する場面を、実際に見ました。
- 誰でも開けるExcelなら、開発ツールのない人も確認できます。
- 前の案件から流用できる過去の設計書をコピーして書き換えれば、体裁がそろいます。
私が一番納得したのは、2つ目の紙の話です。A3に出力した設計書に、客先の担当者が赤ペンで丸と矢印を書き込み、そのままレビュー会議に持ってきました。
画面レイアウトと処理説明が1枚に収まっていて、紙の上で全体を見渡せるという強みは確かにあります。方眼紙は「作る人が困る代わりに、読む人が楽になる」形式でもある、というのが私の見方です。
だから、「方眼紙は悪」と決めつけると、現場では噛み合いません。変えられない前提で、作る側の負担をどう減らすかを考えるほうが現実的です。
業界で似た構図が続く例として、テストのエビデンスをExcelにスクリーンショットで貼る慣習も、別の記事にまとめています。
Excel方眼紙の設計書との付き合い方|形式を変えずにできること
形式を変えられない前提で、私が実際に効果を感じた工夫を、困りごとと対応させて整理します。
| 困りごと | 起きたこと | 私の対処 |
|---|---|---|
| 1 項目追加で崩れる | 設計書の更新に40分 | 項目定義を表形式で先に作る |
| 2 差分が追えない | 差分探しに30分 | 変更履歴にセル番地と変更前後を書く |
| 3 検索できない | 47ファイルを順に開いた | 自分用に項目一覧をテキストで持つ |
| 4 上書き事故 | 復旧に約1時間 | 編集前に宣言し、戻す前に再確認する |
| 5 重い・ずれる | リモート日は1分以上 | 画像を縮小し、リモート日は編集を避ける |
入力用と印刷用を分けて考える
一番効いたのは、編集と体裁を切り離すことです。設計書のフォーマット自体は変えず、自分の作業用に、項目定義を表形式で書いたシートまたはファイルを先に作ります。
項目の追加・並べ替えは、この表で済ませます。方眼紙への転記は最後に1回だけです。この進め方にしてから、項目追加の更新は20分前後に縮みました。
自分で新しくシートを作るときは、セルの結合を使わず、「選択範囲内で中央揃え」を使うと、行や列の挿入で崩れにくくなります。
変更履歴と差分確認のルールを決める
差分で困らないためには、記載の粒度を決めておくのが近道でした。私が自分の担当分でそろえたのは、次の手順です。
- 改修前のコピーを残す編集を始める前に、日付つきのコピーを1つ保存しておきます。
- 赤字は今回の改修分だけにする前回の赤字は、リリース後に黒へ戻す担当を決めます。決まらなければ、自分の担当分だけ自分で戻します。
- 履歴にはセル番地と変更前後を書く「項目追加」ではなく「項目定義シートのB12:納品希望日を追加」まで書きます。
- 提出前に並べて比較するExcelの「並べて比較」で、改修前のコピーと並べて見直します。
履歴の粒度をそろえてからは、レビューで「どこが変わったの」と聞かれる回数が減りました。
上書き事故を防ぐ小さな習慣
上書きの事故は、仕組みを変えなくても、習慣でかなり減らせます。
共有ファイルを触るときの確認項目
- 編集を始める前に、チャットで「受注登録の設計書を触ります」と宣言したか
- 元の場所へ戻す直前に、共有サーバ側の更新日時を見たか
- 更新日時が自分の編集開始より新しければ、中身を見比べてから戻すか
- 戻した後に、チームへ「戻しました」と一言伝えたか
どれも30秒で終わります。事故の復旧に1時間かかった私にとっては、安い保険でした。
自分用メモはMarkdownで持つ
検索できない問題は、設計書の外に逃がすと楽になります。私は自分の作業フォルダに、画面ごとの項目名・処理の要点・注意点をMarkdownのテキストで書き写して持つようにしました。
テキストなら、全文検索も差分比較も一瞬です。しかも、作業フォルダだけでローカルのGit管理を続けていたので、メモの変更履歴も追えました。提出物は方眼紙のまま、自分の理解はテキストで持つ、という分け方です。
ただし、客先の設計書の内容を外部の変換サービスなどへ入れる場合は、扱いのルールを必ず確認してください。
データの扱いに注意
設計書は客先の機密情報を含みます。変換や整理のために外部サービスやAIツールへ貼り付けてよいかは、現場の規程で決まっています。迷ったら、窓口のリーダーか自社の営業に先に確認します。自分の手で書き写して作るメモなら、この問題は避けられます。
三次請けで提案してよい範囲と、してはいけない範囲
結論自分の担当範囲の運用なら提案してよく、客先や元請けに渡る成果物の形式を、断りなく変えてはいけません。形式を決める権限は、もっと上にあるからです。
「方眼紙をやめましょう」と言いたくなる気持ちは分かりますが、三次請けの立場では通りません。何を言ってよく、何をしてはいけないのかを、線を引いて整理します。
提案してよいこと
- 変更履歴の書き方(セル番地・変更前後)
- 赤字を戻す担当やタイミングの取り決め
- 編集前に宣言するなどの更新ルール
- 自分用のテキストメモや項目一覧
- 次回のテンプレート改善の要望(窓口経由)
してはいけないこと
- 共有テンプレートのセル幅やシート構成の変更
- 納品する設計書の形式を勝手に差し替える
- 客先の設計書を許可なく外部サービスに入れる
- 他の人が管理するファイルの体裁の直し
提案するときは、「困っています」ではなく、時間の数字を添えると通りやすくなります。私も、項目追加に設計書40分・実装15分かかっている、と窓口のリーダーへ伝えたうえで、履歴の書き方だけ先にそろえさせてもらいました。いきなり形式を変える話ではなく、小さく通せる範囲から始めたのがよかったと思っています。
また、そもそも設計書の内容が実装とずれていた場合の聞き方は、別の記事に書きました。
まとめ
Excel方眼紙の設計書は、作る側にはつらく、読む側には便利な形式です。三次請けの立場では形式を変えられないので、手間を減らす工夫を自分の持ち場でやるのが現実的でした。
- 5つの困りごと 項目追加で崩れる・差分が追えない・検索できない・上書き事故・重くてずれる
- 使われ続ける理由 納品形式、印刷レビュー、誰でも開ける、流用しやすい
- 付き合い方 項目定義を表で先に作る、履歴にセル番地を書く、編集前に宣言する、自分用メモはテキストで持つ
- 線引き 自分の担当範囲の運用は提案してよく、納品形式の変更はしない
私が2社目で一番変わったのは、「方眼紙がつらい」で止まらなくなったことです。つらさの内訳を、時間と回数で測れるようにしたからです。
項目追加に何分かかるか、差分探しに何分かかるか。今日、1つだけ計ってみてください。数字が出れば、自分の工夫の効果も、窓口への提案も、具体的になります。




