月の残業が40時間を超える状態が続くと、「この先、どこまで積み上がっても問題ないのか」が気になってきます。

SESエンジニアとして5年ほど、業務システムの現場を4社経験してきましたが、残業の数字をいちばん意識したのは、平均で月40〜60時間、最多で60〜80時間になった2社目でした。

今回は、月40〜60時間の残業が続いていた三次請けの現場を舞台に、36協定の上限がどこにあるのか、客先からの残業指示にどこまで従うべきなのかを、実体験をもとに整理します。

この記事で分かること

  • 36協定の上限規制の具体的な数字と、年6回・休日労働の数え方
  • 客先ではなく自社が36協定を結んでいるという構造と、残業を断れるかの考え方
  • 月40〜60時間(最多60〜80時間)の残業が続いた現場で、上限の数字をどう意識したか
  • 精算幅(お金の話)と36協定の上限(法律の話)は別物だという整理
  • 上限が迫っていると感じたときに、自分で確認できる手順と相談先
目次
  1. SESの残業に36協定の上限はあるのか|まず数字を確認します
  2. 月40〜60時間残業が続いた三次請けの現場
  3. 月45時間の原則と、自分の数字を並べてみます
  4. 客先から残業や休日出社を求められたら、まず自社に確認します
  5. 36協定を結ぶのは客先ではなく雇用主である自社という構造
  6. 精算幅と36協定は別物ですが、重なる場面があります
  7. 客先の残業指示に、法的な上限はあるのか
  8. 上限が迫っていると感じたときに、自分で確認できること
  9. まとめ

SESの残業に36協定の上限はあるのか|まず数字を確認します

結論残業に上限はあります。ただし、それを決めているのは客先ではなく、自社の36協定です。

36協定とは、法定労働時間を超えて残業させるために、会社が労働者代表と結ぶ協定のことです。届け出をせずに法定時間を超えた残業をさせると、労働基準法違反になります。

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別な事情があって労使が合意した場合(特別条項)でも、無制限にはなりません。特別条項をつけた場合でも、次の上限は変わりません(出典: 時間外労働の上限規制|厚生労働省)。

年間720時間以内
2〜6か月平均(休日労働を含む)80時間以内
単月(休日労働を含む)100時間未満
月45時間を超えられるのは年6か月まで

特別条項をつけた場合の上限。原則は月45時間・年360時間です。

数え方で間違えやすい点を整理します。

  • 単月100時間未満と、2〜6か月のどの期間をとっても平均80時間以内は、休日労働の時間を含めて数える
  • 年720時間は時間外労働だけの数字で、休日労働は含まない
  • 「年6か月まで」の6か月は、残業が45時間を超えた月の数

上限を超えて働かせた場合は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になり得ます(労働基準法119条)。

なお、36協定は「残業をさせても罰せられない」状態をつくるだけの手続きで、協定があるから残業を命じられる、というものではありません。残業の義務そのものは、労働契約や就業規則に根拠が必要です(出典: 時間外労働の上限規制|厚生労働省)。

数字だけ並べると制度解説のようですが、私がこの数字を初めて意識したのは、六法全書を開いたときではありません。自分の残業時間がその境界に近づいていると感じた、ある月のことでした。

月40〜60時間残業が続いた三次請けの現場

2社目にいたころ、業務システムをウォーターフォールで開発する案件に、自社が三次請けという立場で参画していました。

私は設計・実装・単体テストを担当するメンバーで、この現場の工期は現場の外側で一方的に決まっていました。その工期の中で、残業は平均で月40〜60時間、最も多い月は60〜80時間でした。平均の数字は以前の記事にも書いたとおりです。残業代は全額支給で、みなし残業はなく、休日出勤もありませんでした。

月45時間の原則と、自分の数字を並べてみます

平均が40〜60時間ということは、月45時間という原則の枠を、普段から行き来していた計算になります。最も多い月は60〜80時間なので、原則の枠だけで見れば明らかに超えています。制度上の枠と自分の数字を並べると、次のようになります。

物差し上限2社目の数字
原則(特別条項なし)月45時間平均40〜60時間
特別条項つき・2〜6か月平均(休日労働を含む)80時間以内最多の月で60〜80時間
特別条項つき・単月(休日労働を含む)100時間未満最多の月でも下回る(休日出勤はなし)

数字だけ見れば法律の最大の枠にはまだ余裕があるのに、月45時間を超える月が出てくると、体感としては限界に近づいている感覚がありました。

あわせて気になるのが「月45時間を超えられるのは年6か月まで」という基準です。ただ、この「年6か月」がどの1年間を指すのかは、36協定ごとに定められた期間の起点で決まります。自社の協定の起点がいつなのかも、特別条項がそもそもあったのかも、在籍中に確認しませんでした。

年間の回数は確かめられません

在籍していた約1年半のあいだに、月45時間を超えた月が何回あったのかを数えていたわけではありません。振り返って計算し直そうにも、月ごとの記録は手元に残っていないのが実情です。

客先から残業や休日出社を求められたら、まず自社に確認します

私の2社目は休日出勤がなく、元請けとの直接の接点もありませんでした。ここからは経験談ではなく、客先から残業や休日出社を求められた場合の整理です。

たとえば客先の担当者から、次のように求められたとします。

客先の担当者

今月このままだと厳しいので、土日どちらか出られますか。

自分

一度、会社に確認させてください。

これは実際に交わした会話ではなく、返し方の例です。ここで即答せずに自社へ確認するのは、残業の枠を握っているのが客先ではないからです。

ポイント: 確認すべきなのは「客先の要望に応えられるか」ではなく「自社の36協定の枠内に収まっているか」です。この2つは別の問いで、混同したまま答えると、枠を超えた働き方を引き受けてしまいかねません。

休日出勤そのものの断り方や、割増・振替休日の扱いは、別の記事に書きました。

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36協定書の現物を見せてほしいと、自分から頼んだことは一度もありません。聞けば見せてもらえたのかどうかも、試していないので分かりません。

36協定を結ぶのは客先ではなく雇用主である自社という構造

2社目の残業を振り返って36協定を調べ直したときに、分かったことがあります。36協定は雇用主である自社が労働者代表と結び、労働基準監督署に届け出るもので、客先の名前で結ぶものではない、ということです(出典: SES企業が知っておくべき36協定の基礎知識|レバテック)。

残業を実際に求めてくるのは客先や上位の会社であっても、その残業が法律上どこまで許されるかを決めているのは、客先ではなく自社の36協定です。

客先の担当者に悪気があるとは限りません。握っているのは工期と作業量であって、こちらの雇用主が結んでいる協定の中身までは、そもそも見えていないのが普通です。

立場握っているもの36協定との関係
元請け・客先工期と作業量。残業を実際に求めてくる自社の協定には関与しない(届け出るのは所属元)
自社(雇用主)私の雇用協定の締結・届出の主体。法律上の枠を管理する責任がある

多重下請けの中で、残業を実際に求めてくる相手(元請け・客先)と、その残業の法律上の枠を管理する責任がある相手(自社)が分かれているというのが、この仕組みの構造です。

SESの契約類型を調べたときも、客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前が土台にありました。36協定についても、同じように、協定を結んで届け出るのはあくまで雇用主である自社です。

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精算幅と36協定は別物ですが、重なる場面があります

ここまで読んで、以前書いた精算幅の記事と似た話に聞こえた方もいるかもしれません。実際、この2つは混同しやすいのですが、性質はまったく別物です。

精算幅は自社と客先(次請け)の間の契約で決まるお金の話で、36協定は自社と労働者代表の間で決まる労働時間の法律の話です。前者を超えても請求額が変わるだけですが、後者を超えると労働基準法違反になり得ます。

項目精算幅(契約の仕組み)36協定の上限(法律の仕組み)
決める相手自社と客先(次請け)の契約自社と労働者代表の協定
客先の関与契約の当事者として関与する協定には関与しない
超えたときに起きること超過分が時間単価で加算・控除される労働基準法違反になり得る
本人が確認できる方法営業に精算幅(基準時間)を聞く自社の36協定・特別条項の有無を聞く

2社目の私の契約が、精算幅として何時間から何時間だったのかは、以前の記事に書いたとおり最後まで分からないままでした。仮に精算幅の例としてよく挙げられる140時間から180時間という幅だったとしても、月40〜60時間の残業自体がこの幅の中に収まっていた可能性はあります。

その場合、あの残業は請求額を1円も動かしていなかったことになります。ただそれは、36協定の上限を超えていいという話とはまったく別です。

精算幅の中に収まっているかどうかと、36協定の上限に収まっているかどうかは、独立した2本の物差しです。片方が問題なくても、もう片方は別に確認する必要があります。

客先の残業指示に、法的な上限はあるのか

結論客先が自分で決められる上限はありません。残業の枠を決めているのは、雇用主である自社が結ぶ36協定です。

客先は自社の36協定を結ぶ立場ではないので、客先自身が「何時間まで残業させてよい」という枠を持っているわけではありません。客先ができるのは、あくまで自社に対して工数や納期を要望することまでです。その要望をどこまで受け入れるかを法律の枠内に収める責任は、雇用主である自社にあります。

この整理が成り立つのは、SESの多くが準委任契約で、指揮命令はいまも建前上自社が握っているからです。

この整理の前提

もし契約が労働者派遣であれば指揮命令そのものが客先に移るので、話の前提も変わってきます。派遣でも36協定を締結・届け出るのは派遣元ですが、派遣先が協定の範囲を超えて働かせた場合は派遣先が違反の責任を負うとされています(契約類型の違いは別の記事で整理しています)。2社目の契約書も見ていない以上断定はできませんが、SESの客先常駐としては準委任である可能性が高く、以下はその前提で書いています。

裏を返すと、準委任の建前のもとでは、客先からの残業の打診は「命令」ではなく自社を通した「依頼」です。「一度、会社に確認させてください」と返すのは、この整理に沿った動き方です。

では、36協定があれば残業は断れないのか。

結論36協定があるだけでは、残業に従う義務は生まれません。

36協定は残業をさせても罰せられない状態をつくるだけで、従う義務の根拠は労働契約や就業規則にあります。自社の就業規則に残業を命じられる旨の定めがあれば、自社からの業務命令としての残業には原則従うことになります。

逆に、その定めがなければ、36協定があっても残業を命じる根拠にはなりません。断れるかどうかは、客先の都合ではなく自社の就業規則・契約書で決まります。

もっとも、依頼と命令の境目は、現場の力関係の中ではかなり曖昧です。三次請けのような下流の立場では、上位からの依頼を断りにくい空気があり得ますし、そこは法律論だけでは片づきません。

断ったところで罰則を受けるのは自社であって本人ではありませんが、断り方によっては次の契約更新に響くのではという不安は残ります。SESの契約更新が3か月ごとという短い周期になりがちな事情を考えると、法律上は依頼にすぎない打診でも、現場ではそう簡単に断り切れない重みを持ってしまいます。

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客先からの指示が指揮命令にあたるかどうかという論点は、また別の記事で詳しく整理しています。今回は残業時間の上限に絞って書いていますが、根っこにある「客先は本来、直接コントロールする立場にない」という建前は共通しています。

上限が迫っていると感じたときに、自分で確認できること

制度の建前を知っていても、現場で残業が積み上がっている最中にそれを思い出せるとは限りません。それでも、確認できることはいくつかあります。

  1. 自分の月ごとの残業時間を記録しておく[客先の作業報告と自社の勤怠](/blog/ses-kintai-nijuu-kanri-zure/)のどちらかで構わないので、月末にまとめて見返せる形にしておきます。私は当時これをしていなかったので、2社目の数字は平均と最多の月しか分かりません。
  2. 45時間・80時間・100時間という3つの数字を覚えておく原則の月45時間、2〜6か月平均の上限、単月の上限です。後ろの2つは休日労働を含めて数えます。今どのあたりにいるかが分かるだけで、次の一手を考えやすくなります。
  3. 残業の打診には即答せず、自社に確認する一言を挟む「一度、会社に確認させてください」は角も立たず、法律上も理にかなった対応です。
  4. 自社には具体的な数字を聞いてみる「特別条項付きの36協定があるか」「単月・複数月の上限まであとどれくらいか」を聞きます。断られても、断られたこと自体が一つの情報になります。
  5. 精算幅の話と36協定の話を分けて考える請求額が変わるかどうかと、法律の上限に収まっているかどうかは、別々に確認する必要があります。
  6. 自社で埒が明かなければ外部に相談する上限を超えていそうなのに自社が取り合わない場合は、労働基準監督署や、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。私は使っていませんが、月ごとの記録があれば話が早いはずです。

私自身、これらを全部やれていたわけではありません。特に1つ目の記録は、今の4社目に移ってから初めて習慣にしたことです。

今の現場は、もともと週1出社の予定でしたが、最近はほぼフル在宅です。保守・改修が中心です。あの2社目の時期のように、月の残業が50時間を超えて積み上がるという状況は、今のところ経験していません。

現場によって残業の量がこれだけ変わるのを見ると、上限の話は「制度をどれだけ知っているか」だけでなく「どの現場に配置されるか」にも大きく左右されるのだと感じます。その配置は自分では選べないことが多いからこそ、せめて数字の物差しだけは自分の手元に持っておきたいと考えています。

まとめ

SESの残業に36協定の上限はあるのかという問いに対する答えは、上限はある、ただしそれは客先ではなく自社が結んでいる協定によって決まる、というものです。

この記事の要点

  • 上限の枠 原則は月45時間・年360時間で、特別条項をつけても年720時間以内(時間外のみ)、2〜6か月平均80時間以内・単月100時間未満(どちらも休日労働を含む)、月45時間超えは年6か月までという枠があります
  • 私の場合 2社目では残業が平均で月40〜60時間、最も多い月は60〜80時間でした。休日出勤はなく、数字の上では特別条項つきの上限には届いていませんが、原則の月45時間は普段から行き来していました。客先から残業や休日出社を求められたときは、「一度、会社に確認させてください」と返すのが、制度に沿った動き方です
  • 確認できなかったこと 自社の36協定に特別条項があったのか、協定書の中身は、在籍中に確認しないままでした

精算幅というお金の物差しと、36協定というもう一つの物差しは別物です。どちらか一方だけを見て安心するのではなく、両方を分けて確認する視点を持っておくことをお勧めします。

もし今、残業が積み上がっていて数字が気になっているなら、まずは自分の月ごとの残業時間を書き出すところから始めてみてください。そこに、次に何を確認すべきかの手がかりがあるはずです。