今の現場(4社目)に入って間もないころ、独自の社内フレームワークの選定経緯を誰も知らないという状況に行き当たり、ふと「そもそも自分は何の契約でここにいるんだろう」と思ったことがあります。
調べようにも、契約書は見せてもらえる立場ではありませんでした。SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、自社と客先の間の契約書を自分の目で見たことは一度もありません。
今回は、契約書そのものは見られない立場でも、日々の運用の中から自分の契約類型を推測する手がかりと、確かめたくなったときに自社へ聞ける質問を、今の現場での実体験と民法・厚生労働省の資料をもとに整理します。
この記事で分かること
- 準委任・請負・労働者派遣の3つが、働く本人にとって何がどう違うのか
- 指揮命令と偽装請負の境目が、契約書の名前ではなく実態で判断される理由
- 「履行割合型」と「成果完成型」という、準委任の中にある2種類の違い
- 契約書がなくても観察できる、契約類型を推測する5つの手がかり
- 契約書を見られない本人が、自社の営業やリーダーに聞ける質問の例
- 3か月ごとに更新される働き方の法的な背景と、その付き合い方
目次
- SESの準委任契約とは|契約書が見れなくても確かめられること
- 準委任・請負・労働者派遣、働く本人にとって何が違うのか
- 準委任契約は「事務処理」を引き受ける契約です
- 請負契約は「仕事の完成」を約束する契約です
- 労働者派遣は指揮命令が客先に移る契約です
- 指揮命令と偽装請負の境目|契約書の名前ではなく実態で決まります
- 37号告示が見ているのは「労働力の直接利用」と「業務の独立処理」です
- 東京労働局が挙げる偽装請負の4つの型
- 偽装請負かどうかを、働く本人は判定できません
- 履行割合型と成果完成型|工数で精算されているかが分かれ目
- 契約書がなくても分かる、4社目で気づいた5つの手がかり
- A. 月末に出しているのは「工数表」か「検収書」か
- B. 精算幅(基準時間)の下限が存在すること自体
- C. リリース後の不具合が「追加の工数」として扱われた
- D. 作業の指示が「順序の指示」なのか「使い方の説明」なのか
- E. 自社の管理者が現場にいるかどうか
- これらの手がかりで分かること、分からないこと
- 契約書を見られない本人が、自社に聞ける質問の例
- 聞いておきたい4つの質問
- 私が聞いたときの反応と、聞くときのコツ
- 答えが返ってこなかったとき、食い違っていたときの動き方
- 準委任だからといって不利とは限らない|651条の任意解除という背景
- まとめ
SESの準委任契約とは|契約書が見れなくても確かめられること
結論契約書そのものは見られなくても、日々の運用から契約類型は推測できます。ただし、推測は推測で、確定ではありません。
SESの客先常駐は準委任契約であることが多いと言われていますが、個別契約書そのものを本人が見る機会は、私の経験した範囲では一度もありません。
私の場合
単価は、リーダーや営業から口頭で聞ける現場がほとんどでした。ただ、それも数字を伝えられただけで、契約書の現物を見たわけではありません。
契約書が見られないなら、自分の契約が準委任なのか、請負なのか、それとも労働者派遣なのかを確かめる方法はないのでしょうか。私はそうは思いません。契約書という「答え」は見られなくても、日々の運用の中には、契約類型を推測できる手がかりがいくつも転がっています。
この記事では、独自の社内フレームワークを使った業務システムの改修を担当している4社目での実体験をもとに、その手がかりを具体的に紹介します。
契約類型を知っておく意味は、単なる知的好奇心にとどまりません。不具合が出たときに自分がどこまで責任を問われる立場なのか、指示の受け方がどこまで許容される範囲なのかを判断する土台になります。
なお、「SES」という言葉は、民法や労働者派遣法に出てくる法律用語ではなく、業界での呼び方です。契約の中身を決めるのは、SESという名前ではなく、自社と客先の間で結ばれた契約の類型と、現場での実際の働かせ方です。
準委任・請負・労働者派遣、働く本人にとって何が違うのか
3つの契約類型がそれぞれどういうものなのか、企業向けの比較表をなぞるのではなく、現場で働く本人にとって何が変わるのかという軸で整理しておきます。
準委任契約は「事務処理」を引き受ける契約です
民法上、委任は「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」契約と定義されています(民法第643条)。この記事で引用している民法の条文は、いずれも原文で確認できます(出典: 民法|e-Gov法令検索)。
法律行為ではない事務の委託については、この委任の規定が準用されます(民法第656条)。これが準委任と呼ばれるもので、SESのシステム開発・保守業務はこちらにあたります。
準委任契約で仕事を引き受けた側には、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務があります(民法第644条)。仕事を「完成させる」ことそのものは契約上の義務ではなく、決められた事務を誠実に処理すること自体が義務の中心になります。
働く本人の立場に置き換えると、担当した機能に後から不具合が見つかったとしても、日々の作業を誠実にこなしていた実態があれば、それだけで契約上の債務不履行に直結するとは考えにくい、という理解になります。
請負契約は「仕事の完成」を約束する契約です
一方、請負は「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です(民法第632条)。準委任との一番の違いは、この「完成」という言葉です。請負では、仕事を完成させること自体が契約上の義務になります。
完成させた仕事の種類や品質が契約の内容に適合しない場合、注文者は追完請求や報酬減額請求ができます(契約不適合責任)。ただし、その不適合が注文者の供した材料の性質や与えた指図によって生じたものであるときは、注文者はこれらの請求をすることができません(民法第636条)。請負人がその材料や指図が不適当だと知りながら告げなかったときは、この限りではありません。
この責任には期間の制限もあります。注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を通知しないと、追及できなくなります(民法第637条第1項)。請負人が不適合を知っていた場合などは、この期間制限は適用されません(同条第2項)。
ちなみにこの「契約不適合責任」という呼び方も、2020年4月に施行された民法改正で、それまでの「瑕疵担保責任」という呼び方から整理されたものです。
労働者派遣は指揮命令が客先に移る契約です
労働者派遣法は、労働者派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義しています(労働者派遣法第2条第1号。出典: 労働者派遣法|e-Gov法令検索)。要するに、雇用は自社のままで、指揮命令だけが客先に移る形です。
準委任・請負のどちらでも、労働者を指揮命令するのは本来、雇用主である自社です。客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしてしまうと、契約上は準委任・請負のはずが実態は労働者派遣に近づいてしまう、いわゆる偽装請負の問題が出てきます。
その線引きの基準が37号告示です。この告示の中身は、次の章で、本人の立場で使える形に直して整理します。
3つの契約類型を、本人にとっての違いという軸でまとめると、次のようになります。
| 契約類型 | 指示を出すのは誰か(建前) | 報酬が発生する条件 | 成果物に不具合があった場合 |
|---|---|---|---|
| 準委任(SESの多くはこちら) | 自社(客先は直接指揮命令をしない建前) | 履行割合型は事務処理そのものに対して、成果完成型は成果の引渡しに対して | 契約不適合責任の規定はなく、善管注意義務を尽くしたかが問われる |
| 請負 | 自社(請負人が自己の労働者を指揮するのが原則) | 仕事の完成に対して | 契約不適合責任があり、注文者は追完請求・報酬減額請求ができる |
| 労働者派遣 | 客先(派遣先が直接指揮命令をする契約類型) | 雇用契約に基づく賃金 | 派遣先ではなく、雇用主である派遣元の責任 |
表の「指示を出すのは誰か」の列を、図にしたものです。
指揮命令と偽装請負の境目|契約書の名前ではなく実態で決まります
結論契約書に「準委任」と書いてあっても、現場の実態が派遣であれば、派遣として扱われます。名前では守られません。
準委任と労働者派遣の違いは、突き詰めると「誰が指揮命令をしているか」です。ここが契約書の名前と食い違っている状態が偽装請負で、東京労働局は、書類上は請負(委任・準委任、委託等を含む)契約の形をとっていても、実態としては労働者派遣であるものと説明しています(出典: 偽装請負について|東京労働局)。
つまり、「うちは準委任だから大丈夫」という理屈は成り立ちません。判断されるのは契約書の題名ではなく、現場で誰が誰に何を指示しているかという実態のほうです。
37号告示が見ているのは「労働力の直接利用」と「業務の独立処理」です
請負と派遣を分ける基準は、厚生労働省の37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)にまとめられています(出典: 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準|厚生労働省)。
第2条は、請負の形式をとっていても、次の2つの条件の両方を満たしていなければ、労働者派遣事業を行うものとして扱うと定めています。
- 労働力を自ら直接利用していること 業務の遂行方法や評価についての指示、始業・終業や休憩・休日・残業についての指示、服務規律や配置の決定を、請け負った側が自ら行っている
- 業務を独立して処理していること 資金の調達や事業主としての責任を請け負った側が負い、機械・材料を自分で調達するか、自己の企画または専門的な技術・経験によって処理している
それぞれに細かい要件が並んでいますが、本人の目線に引きつけて読むと、前者は「現場での日々の指示を、自社が自分の責任でしているか」、後者は「客先の道具と指示だけで動く手足になっていないか」という問いだと私は受け取っています。
さらに第3条には、偽装の意図があって、真の目的が労働者派遣であるときは、形式を整えても免れられないという趣旨の規定があります。
指揮命令の実態判定は、厚生労働省の疑義応答集が具体的な設問ごとに整理しています。日常会話や技術指導は指揮命令にあたらないとされる一方、仕事の順序・方法まで発注者が指示する場合は派遣と判断される、といった内容です。その読み解きは別の記事に書いたので、ここでは詳しく踏み込みません。
東京労働局が挙げる偽装請負の4つの型
東京労働局は、偽装請負によくあるパターンを4つの型で説明しています(前掲の出典と同じページ)。
| 型 | 東京労働局の説明の要旨 |
|---|---|
| 代表型 | 請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりする |
| 形式だけ責任者型 | 現場に形式的に責任者を置いているが、その責任者は発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、実態は発注者が指示しているのと同じ |
| 使用者不明型 | A社がB社に発注し、B社が受けた仕事をそのままC社に出す。C社の労働者がAの現場で、AやBの指示で働き、誰に雇われているのか分かりにくい |
| 一人請負型 | 発注者と受託者の関係も、受託者と労働者の関係(個人事業主としての請負)も請負で偽装し、実態は発注者の指示で働く |
この4つの型は、後で書く5つの手がかりのうちの「自社の管理者が現場にいるか」とつながります。
現場に自社の管理者が常駐していないこと自体は違法ではありません。ただ、管理者がいない、またはいても客先の指示を取り次ぐだけという状態は、形式だけ責任者型や一人請負型で挙げられる状況と重なります。だから私は、管理者の有無を契約類型の手がかりの一つとして見るようにしています。
偽装請負かどうかを、働く本人は判定できません
ここで正直に書いておくと、自分の現場が偽装請負にあたるかどうかを、本人が確定させることはできません。判断に必要な、自社と客先の契約の中身や、自社が負っている責任の範囲は、契約書を見られない立場からは見えないからです。
派遣法には、請負などの名目で法の適用を免れる目的の契約を結んで派遣の役務の提供を受けた場合などに、受け入れ側が労働者へ労働契約の申込みをしたものとみなす制度(労働者派遣法第40条の6)もあります。ただ、その要件には、免れる目的の有無など本人からは見えない事情が含まれます。この制度の適用の判断や詳しい運用は、私には確認しきれていないので、断定的なことは書きません。
本人にできるのは、判定ではなく、実態の観察と記録です。この後の章で、その観察の道具を紹介します。
履行割合型と成果完成型|工数で精算されているかが分かれ目
準委任契約の中にも、実は2種類あります。原則は「履行割合型」と呼ばれる形で、報酬は特約がなければ請求できず、委任事務を履行した後でなければ請求できないとされています(民法第648条)。工数に応じて対価が発生する、いわば時間の積み上げ型です。
もう一つが「成果完成型」で、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う特約がある場合、その成果の引渡しと同時に報酬を請求できます(民法第648条の2)。この成果完成型は、2020年4月施行の民法改正で新しく明文化されました。それまでの準委任は履行割合型が中心で、成果に対する報酬という考え方は条文上あいまいでした。
IPAが公開している情報システムの標準的な契約書のひな形でも、この民法改正を受けて「成果報酬型準委任契約の位置づけ」や「中途解除の場合の報酬請求権の帰趨」が見直しの論点として挙げられています(出典: 情報システム・モデル取引・契約書 第二版|IPA)。
2つのタイプを並べると、次のようになります。
| 履行割合型(原則) | 成果完成型 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法第648条 | 民法第648条の2 |
| 報酬が確定する条件 | 委任事務を履行した後(工数の積み上げ) | 成果の引渡しと同時(特約がある場合) |
| 請負との近さ | 遠い | 近い |
| 日々の実感 | 稼働時間で対価が決まる感触 | 成果物の完成で対価が決まる感触 |
自分の契約がどちらのタイプなのかを知る手がかりは、実は日々の実感の中にあります。
月々の対価が稼働時間の積み上げで決まっている感触があるなら履行割合型寄り、特定の成果物の完成をもって対価が確定する感触があるなら成果完成型寄りだと考えられます。
SESでは、月の基準時間に幅(精算幅)を設けて、その範囲内なら月額固定、幅を外れたら増減額を精算するという形がよく使われると言われています。これは時間の積み上げに対価を結びつける仕組みなので、履行割合型の発想に近いものです。
4社目の私の実感は、次の章で書く作業報告書の運用を見る限り、はっきり履行割合型寄りです。
契約書がなくても分かる、4社目で気づいた5つの手がかり
ここからが本題です。契約書という一次資料がなくても、日々の運用を観察すれば、契約類型を推測する材料はいくつも見つかります。4社目で実際に気づいたことをもとに紹介します。
A. 月末に出しているのは「工数表」か「検収書」か
4社目では、毎月末に自社の共通フォーマットで作業報告書を作成し、提出しています。中身は日別の稼働時間の一覧と、その月に対応した作業内容を数行でまとめたものです。
フォーマットの列は「日付」「開始・終業時刻」「作業内容」の3つだけで、成果物の名称や検収の可否を記入する欄はそもそも用意されていません。
客先側にも同じ内容を確認してもらう運用ですが、プロパー担当者がチャットで「確認しました」と一言返す程度で、成果物そのものに対して検収書や受領書のような書類にサインした記憶はありません。
時間の積み上げを申告する書類しか存在せず、成果物の完成を確認する書類がないという状態は、履行割合型の準委任らしさを示す手がかりの一つになります。逆に、月々の成果物ごとに検収書が回ってくるなら、請負や成果完成型の準委任に近い運用だと考えられます。
B. 精算幅(基準時間)の下限が存在すること自体
参画から2か月ほど経った契約更新のタイミングで、営業に精算幅の下限を聞いたことがあります。返ってきたのは次の一言だけでした。
今回の精算幅の下限だけ教えてもらえますか?
140時間からです。
そのやり取りでは、単価そのものには触れられませんでした。
正直に言うと、上限が何時間なのか、超過分や下回った分の単価がいくらなのかまでは、この記事を書くために振り返っても分からないままです。
ただ、下限という考え方が存在すること自体が、稼働時間の多寡によって金額が変動する契約だという有力な手がかりになります。仕事の完成そのものに一括で値段がついているなら、下限時間という発想はそもそも出てこないはずです。
今の現場に入ってから、月の稼働がこの140時間を下回った月があったかどうかを思い返してみましたが、幸い一度もありません。だからこそ、控除という事態を実感として経験しないまま今に至っている、というのが正直なところです。
C. リリース後の不具合が「追加の工数」として扱われた
参画から4か月ほど経ったころ、自分が担当していた画面で、入力チェック漏れによる軽微な不具合が本番リリース後に見つかったことがあります。
客先のプロパーからではなく、自社のリーダー経由で「次の工数として来月分に積んでください」という趣旨の指示が来ました。「無償で直してください」と言われることはなく、修正作業も通常の作業と同じように工数計上されています。
もしこれが請負契約で、しかも契約不適合責任の期間内(不適合を知った時から1年以内に通知)であれば、注文者側は無償の追完を求める権利を持っています。今回はそうならず、普通に工数として積まれたという運用は、準委任らしい対応だったと振り返って感じます。
この手がかりの注意点
これだけで契約類型を断定はできません。客先側がたまたま鷹揚な対応をしただけという可能性も残るからです。
D. 作業の指示が「順序の指示」なのか「使い方の説明」なのか
指揮命令の観点で一番分かりやすい手がかりが、これです。私が経験した範囲で、質の違う2つの場面を並べます。
このメソッドはこう呼び出さないと動かない、なぜなら内部でこういう処理をしているから。
今日中にここまで終わらせてほしい。
上は、独自の社内フレームワークの使い方を教えてもらっているという色合いが強く、その日の作業の順番を直接指定されるような指示とは質が違うものでした。下は、2社目の朝会で、元請けの担当者が各自の名前を呼んで工数と締め切りを直接割り振ったときのものです。
どちらも「客先側から言われた」ことには変わりません。ただ、技術的な使い方の説明と、日々の作業量や期限の割り振りとでは、37号告示が見ている「業務の遂行方法についての指示」への近さがまったく違います。
深入りはしませんが、「誰が」「何を」指示しているのかを普段から意識しておくと、契約類型の推測材料になるだけでなく、偽装請負のような望ましくない状態への気づきにもつながります。
E. 自社の管理者が現場にいるかどうか
4社目に参画した当初、同じ自社から来ていた別の常駐メンバーが一人いましたが、リーダー職ではなく、自分と同格の担当者でした。自社の管理者という役割の人は、この現場に常駐していませんでした。
4社目でも、改善の提案は客先に直接持ち込まず、現場には来ない自社側の担当者を経由して課題票に起票する流れで、返答が来るまでに数日かかることもありました。決裁の経路が現場の外側にあるという実感は、指示や判断の起点が自社側にあるという建前とも重なります。
その後、現場に入って数か月たったころに、私自身が自社の役職上の管理職になりました。ただ、これは社内の役職の話であって、契約上、私がこの現場の指揮命令の責任者として位置づけられているのかどうかは、私自身にも分かりません。役職名が付くことと、管理責任の所在が決まることは同じではない。この区別は、管理職になって初めて強く意識するようになりました。
別の現場では、自社の人間が自分ひとりだけという配置も経験しています。管理者が現場にいるかどうかは契約類型そのものを決める要素ではありませんが、実務の指揮系統が誰を経由しているかを見る上での手がかりにはなります。
自分の現場で確かめる5つの手がかり
- 月末の提出物が工数表か検収書か
- 精算幅(基準時間)の下限が存在するかどうか
- 不具合対応が無償の修補義務として扱われるか、追加の工数として扱われるか
- 作業の指示が順序の指定なのか、使い方の説明なのか
- 自社の管理者が現場に常駐しているか
5つの手がかりを、どの契約類型に近い状態なのかという見方で並べ直すと、次のようになります。
| 手がかり | 履行割合型の準委任に近い状態 | 請負・成果完成型に近い状態 | 派遣に近い状態(要注意) |
|---|---|---|---|
| A. 月末の提出物 | 稼働時間の一覧 | 成果物ごとの検収書 | 客先の勤怠管理に合わせた出退勤の記録 |
| B. 精算幅 | 下限・上限がある | 精算幅の話が出ない | 精算幅だけでは見分けにくい |
| C. 不具合対応 | 追加の工数として計上 | 無償で直すよう求められる | 客先から直接修正を指示される |
| D. 日々の指示 | 使い方の説明が中心 | 成果物の仕様の確認が中心 | 作業の順序・方法・時間の指定 |
| E. 自社の管理者 | 自社の窓口が実質機能している | 自社の責任者が現場を管理している | 管理者がいない、または取り次ぐだけ |
この表は、私の現場の観察と上で見た資料から組み立てた目安で、法的な判定基準ではありません。1つの項目だけで決めつけず、複数の手がかりが同じ方向を向いているかを見るための整理です。
これらの手がかりで分かること、分からないこと
ここまで書いてきた5つの手がかりは、あくまで推測材料です。契約類型を法的に確定させる証拠にはなりません。作業報告書の運用も、精算幅の存在も、不具合対応のされ方も、自社と客先の間の合意という契約書の中身を直接示すものではないからです。私自身、4社目の契約が正式に何と呼ばれる契約なのか、今も確定的には分かっていません。
それでも、これらの手がかりを積み重ねることには意味があると考えています。1つの手がかりだけでは断定できなくても、複数の手がかりが同じ方向を示していれば、少なくとも「履行割合型の準委任として運用されている可能性が高い」という見立てくらいは立てられます。
もう一つ押さえておきたいのは、分かるのは「今の運用の形」までで、「その運用が契約どおりかどうか」までは分からない点です。契約書が準委任でも運用が派遣寄りなら、前の章で見たとおり実態が優先されます。
もし本当に確定させたいなら、次の2つの手段が考えられます。
- 自社に個別契約書の写しを求めてみる 断られる可能性は高いですが、実際に聞いてみた経験を別の記事で書きました
- 自分に交付されている労働条件通知書と照らし合わせる ただし労働条件通知書は自社との雇用条件を示す書面であって、客先との個別契約の中身そのものを保証するものではありません。この境界線についても、別の記事で詳しく整理しています
断定的な結論を急がず、複数の手がかりを積み重ねて見立てを立てる、という距離感が現実的です。
ただ、契約書の写しまで求めるのはハードルが高い、というのが現実です。その手前の、もう少し聞きやすい質問から始める方法を、次の章にまとめました。
なお、三次請け・二次請けといった商流の深さと、準委任・請負・派遣という契約類型は、そもそも別の軸の話です。何次請けかを調べる方法と、二重派遣にあたるかどうかを確かめた話は、この記事とは別の切り口として書いています。
契約書を見られない本人が、自社に聞ける質問の例
結論契約書の写しを求めなくても、「契約の類型」「精算の仕方」「現場の責任者」の3点は、質問の形を工夫すれば自社に聞けます。
契約の解説は発注側の目線で書かれたものが多いのですが、契約書を持っているのは自社の営業や管理部門で、本人の手元には何もありません。だから私が大事だと考えているのは、契約書を出してもらうことよりも、答えやすい質問を選んで聞くことです。
聞いておきたい4つの質問
質問は、契約書の中身そのものではなく、本人の働き方に直接関わる運用の部分に絞ります。「契約書を見せてください」ではなく、「この運用の根拠を教えてください」という聞き方です。
自社の営業・リーダーに聞ける質問の例
- 契約類型 今の現場は準委任契約ですか。請負や派遣ではない、という確認だけでかまいません
- 精算の仕方 月の精算幅は、下限と上限が何時間ですか。稼働が下回ったとき、上回ったときはどう精算されますか
- 管理責任者 この現場で、自社側の管理責任者は誰ですか。指示や相談はまず誰に出せばいいですか
- 書類の扱い 月末の作業報告書は、誰がどこまで確認していますか。検収の書類は別にありますか
どれも、契約書の本文を見せてほしいというお願いではありません。答えるだけなら、営業にとっても手間が小さい質問です。
質問を出す相手は、契約の窓口である営業が基本です。ただ、現場での指示や責任者のことは、現場にいる自社のリーダーのほうが実態を知っていることが多いので、質問ごとに相手を分けるほうが答えは返ってきやすいと思います。
私が聞いたときの反応と、聞くときのコツ
私が実際に営業から聞き出せたのは、精算幅の下限だけでした。「今回の精算幅の下限だけ教えてもらえますか」と範囲を絞って聞いたところ、「140時間からです」と答えが返ってきました。
一方で、そのときは単価そのものについて「そこは会社間の話なので」という趣旨の説明で、その場では教えてもらえませんでした。
この経験から、私が意識している聞き方のコツが3つあります。
答えを引き出すための3つのコツ
- 範囲を絞る契約書の全体ではなく、下限だけ、責任者だけ、という小さな質問にしたほうが答えてもらえます。
- 理由を添える「残業の見通しを立てたいので」「指示の出し先を間違えたくないので」のように、聞く理由が仕事上のものだと伝わると角が立ちません。
- 更新のタイミングに合わせる契約更新の話が出るときは、契約の話題が出やすく、聞くことが不自然になりにくい時期です。
聞いた結果は、チャットに残る形にしておくと、後から見返せます。口頭で聞いたなら、聞いた日付と答えの要点を自分用にメモしておくだけでも、後の判断材料になります。
答えが返ってこなかったとき、食い違っていたときの動き方
答えが返ってこない、あいまいにされる、ということは十分にあり得ます。その場合は、無理に追い詰めず、前の章の5つの手がかりに戻って、自分で見立てを立てるしかありません。
問題は、返ってきた答えと現場の運用が食い違っていた場合です。たとえば「準委任で、指示は自社の窓口経由です」と説明されたのに、実際には客先の担当者から作業の順序や時間を日常的に指示されている、といったケースがこれにあたります。
その場合、私なら次の順で動きます。
- 事実を記録する誰が・いつ・何を指示したか
- 自社に相談する営業か自社のリーダー
- 解消しなければ外部へ労働局の相談窓口
最後の外部の窓口について、東京労働局の偽装請負のページには、4つの型の説明に続けて相談窓口の案内が置かれています(出典: 偽装請負について|東京労働局)。
ただ、外部に相談する前に、まずは事実を記録して自社に伝える、という順番を踏むことをおすすめします。
なお、厚生労働省は37号告示に関する疑義応答集を公開しています(出典: 労働者派遣事業関係 疑義応答集|厚生労働省)。システム開発の場面を扱った事務連絡(令和3年5月13日)も出されていますが、私はその中身まで確認できていないため、ここでは存在のみ書いておきます。
準委任だからといって不利とは限らない|651条の任意解除という背景
準委任契約には、もう一つ知っておくといい規定があります。委任は、当事者のどちらからでもいつでも解除できるという規定です(民法第651条)。ただし、相手方に不利な時期に解除したときなどは、損害を賠償する義務が生じます。
SESの契約更新が3か月ごとという短い周期になりがちで、その中で契約が切られやすい背景には、この任意解除という民法の考え方が土台にあるのだろうと私は理解しています。
この任意解除には、もう一つ続きの規定があります。委任が履行の中途で終了したときは、受任者はすでに履行した割合に応じて報酬を請求できるとされています(民法第648条第3項)。
言い換えると、契約が更新されずに途中で終わったとしても、それまで働いた分の対価がまるごと消えるわけではない、という建て付けです。
この報酬請求権の前提
この報酬請求権は自社と客先の間の話であり、私自身が客先に対して直接主張できる権利ではありません。あくまで、自社が客先との間で交渉する際の法的な土台になっている規定だと理解しています。
正直、この規定を知ったときは、自分の立場の不安定さを法律が裏付けているようで、あまりいい気分はしませんでした。ただ、見方を変えれば、この解除のしやすさは、双方にとって身動きの取りやすさでもあります。
現場が合わなければ、自社を通じて次の現場を探す動きも、理屈の上ではそれだけ取りやすいということです。実際には現場を変える主導権の多くは会社側にありますが、契約の建て付けそのものが一方的に不利というわけではありません。
準委任という契約類型そのものを恨むよりも、精算幅や有給の扱いのように、契約の建て付けの中でどう動くかを工夫するほうが、現実的な向き合い方だと今は考えています。
条文を読み直して、変えたこと
この記事を書くために条文を読み直してから、変えたことが一つあります。自分が提出した作業報告書の控えを、提出後も自分のクラウドストレージに残すようにしたことです。
契約類型そのものは変えられなくても、自分が誠実に事務を処理していたという記録を手元に残しておくことは、いざというときの手がかりを増やすことにつながると考えています。
まとめ
SESの客先常駐は準委任契約であることが多いとされていますが、契約書そのものを本人が見る機会は、私の経験した範囲では一度もありませんでした。
それでも、月末の提出物、精算幅の下限、不具合対応、指示の出どころ、自社の管理者といった、日々の運用の中に契約類型を推測する手がかりは確かに存在します。大事なのは、これらの手がかりを断定の材料にせず、あくまで見立てを立てるための材料として使うことです。契約書に準委任と書かれていても、実態が派遣に近ければ派遣として扱われる、というのが37号告示と東京労働局の整理でした。名前ではなく実態を見るという視点が、自分の身を守る一番の土台になります。
確定させたいなら、まずは契約類型・精算の仕方・管理責任者といった答えやすい質問を自社に投げ、それでも足りなければ個別契約書の写しを求めるか、労働条件通知書と照らし合わせるという次の一手があります。
もし今、自分の契約がどういうものなのか気になっているなら、まずは今月出した書類が「工数を積み上げる書類」なのか「成果物を検収する書類」なのかを、あらためて見直してみてください。そこに、最初の手がかりがあるはずです。




