「来月から管理職にします」と言われて、うれしさの一方で、残業代はどうなるのかと頭をよぎった方は多いと思います。私も今の4社目で、現場に入って数か月後に自社の役職上の管理職になり、それ以降、月20〜40時間の残業に残業代は付いていません。
SESで5年ほど、4社の現場を経験してきましたが、管理職になったのは今回が初めてです。今回は、役職上の管理職と労働基準法の管理監督者がどう違うのか、昇格前後でお金がどう動くのかを、実体験と公的資料を分けて整理します。
この記事で分かること
- 役職上の管理職と、労働基準法の管理監督者が別物である理由
- 管理監督者に当たるかを見る4つの観点と、私の現状で確認できていないこと
- 昇格前後の収支を、自分で試算する手順(仮の計算例つき)
- SES特有の事情(客先の指揮命令下・勤怠の二重管理・手を動かす管理職)
- 昇格を受ける前に、会社へ聞いておきたいこと
目次
- SESで管理職になると残業代が出ないのは、本当に当たり前なのか
- 私が管理職になった時点の状況
- 昇格の話を聞いたとき、私が確認しなかったこと
- 管理監督者とは何か。役職名ではなく実態で決まります
- 労働基準法41条2号と「管理監督者」
- 判断に使われる4つの観点
- 昇格前後でいくら変わったのかを、自分で試算する手順
- 試算の手順
- 仮の計算例
- 基本給の増加には、賞与を通じた効果もあります
- SESの管理職には、一般論では測れない事情があります
- 出退勤の裁量は、客先のスケジュールに引っ張られます
- 勤怠は自社と客先に二重にあり、管理職になっても同じです
- 手を動かしながら3〜5名を見る、プレイングマネージャーの立場
- 管理職でも、深夜割増は別の話です
- 昇格を受ける前に、自社へ聞いておきたいこと
- すでに管理職になっている人が、今からできること
- 納得できないときは、社外の窓口もあります
- まとめ
SESで管理職になると残業代が出ないのは、本当に当たり前なのか
結論自社の役職が「管理職」でも、それだけで残業代が出なくて当然とは言えません。労働基準法で割増賃金の対象外になるのは「管理監督者」で、これは肩書ではなく実態で決まります。
まずは、私自身の状況から書きます。数字は、役職がつく前後を比べるときの前提になるので、先に並べておきます。
私が管理職になった時点の状況
4社目は二次請けの現場で、社内向け業務システムの保守・改修を、Java・TypeScriptで担当しています。入場して数か月後に管理職になりましたが、仕事の中身は設計・実装・テストが中心のままで、そこに3〜5名のメンバーを見る役割が加わりました。
4社目で管理職になってからの数字。月収と基本給の差は各種手当ですが、内訳の細部は確認しきれていません。
つまり、毎月20〜40時間働いた分は、給与の上では無償になっています。
3社目までは残業代が実費で出ていたので、立場が変わっただけで、同じ働き方が無給に変わったことになります。
昇格の話を聞いたとき、私が確認しなかったこと
振り返ると、昇格を告げられた場面で、私は確認すべきことをほとんど聞いていませんでした。自社の営業とのやり取りは、おおむね次のようなものです。
現場での役割も増えているので、来月から管理職という扱いにします。
分かりました。基本給はどうなりますか?
上がります。詳しくは来月の明細で確認してください。
残業代のことは、聞きそびれたな。
基本給が上がると聞いて安心してしまい、残業代がどう扱われるのか、手当は付くのか、金額はいくらなのかを、その場で聞きませんでした。
私の場合
管理職手当があるのか、あるならいくらなのかは、記事を書いている今も確認できていません。明細の項目と就業規則を突き合わせるところまで、手が回っていないのが正直なところです。昇格の話をされた時点で聞いておけば、今ごろ数字で語れたはずだと後悔しています。
この記事は、確認の遅れた私が、同じ状況の方に先回りして渡せる確認項目を整理したものです。
管理監督者とは何か。役職名ではなく実態で決まります
ここからは、制度の側の話です。私自身が経験した話ではなく、公的な資料で確認できた範囲だけを書きます。
労働基準法41条2号と「管理監督者」
労働基準法41条2号は、監督または管理の地位にある者(管理監督者)について、労働時間・休憩・休日の規定を適用しないと定めています。管理職の残業代が出ない根拠として、語られるのはこの規定です。
ただ、役職が管理職であることと、管理監督者に当たることは別です。愛知労働局の資料でも、名称にとらわれず実態で判断するとされていて、待遇が良いだけで実態のない役付者は含めないと説明されています(出典: 労働時間・休憩、休日の適用除外|愛知労働局)。
肩書が課長でも部長でも、実態が伴わなければ管理監督者とは扱われません。 逆に、肩書が何であっても、実態が伴えば当たることもあり得ます。
判断に使われる4つの観点
厚生労働省は、小売業・飲食業の店舗を対象にした通達で、管理監督者の範囲を適正化するための判断要素を示しています。職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇の4つに分けて整理されています(出典: 多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について|厚生労働省)。
この通達の適用範囲について
この通達は、小売・飲食の店舗の店長などを念頭に置いたものです。IT業界のSESにそのまま当てはまるとは言えません。役職名ではなく実態を見るという考え方の参考として使います。また、私が管理監督者に当たるかどうかは、この記事では断定しません。
4つの観点を、私の現状と照らして並べると、確認できていることとできていないことの差がよく分かります。
| 観点 | 見るところ(考え方の目安) | 私の現状 |
|---|---|---|
| 職務内容 | 管理の仕事が中心か、現場の作業が中心か | 設計・実装・テストが中心。そこに3〜5名を見る役割が加わった |
| 責任と権限 | 労務管理や人事に、実際に関与できるか | 規程上の権限は確認できていない |
| 勤務態様 | 出退勤や働き方を、自分で決められるか | 終業は定時〜20時。始業・終業の裁量があるかは確認できていない |
| 待遇 | 残業代が出ない分を補う水準か | 基本給は28〜30万円。管理職手当の有無・金額は未確認 |
この表で、私は4つの観点のうち、はっきり言えるのは職務内容の1つだけです。残りは、「分からない」としか書けません。
確認できていない項目が多いという状態こそが、昇格を受けた時点の私の実態でした。
昇格前後でいくら変わったのかを、自分で試算する手順
制度の話だけでは、自分が損をしているのかは分かりません。判断の材料にするには、昇格前後でお金がどう動いたかを、自分の数字で比べる必要があります。
試算の手順
- 昇格前の基本給と手当を明細から拾う昇格直前の月の明細から、基本給と各手当を分けて書き出します。
- 昇格後の基本給と手当を同じ形で書き出す管理職手当のような新しい項目が増えていないかも見ます。
- 昇格前と同じ残業をしたと仮定して、残業代相当額を出す時給換算して割増をかけ、月の残業時間を掛けます。
- 昇格後の増加分が、残業代相当額を上回るかを比べる上回っていれば、少なくとも金額の上では埋め合わせがあることになります。
3つ目の「残業代相当額」は、昇格前に実際に出ていた残業代があれば、それが一番確かな数字です。私の場合は、残業が実費で支給されていた3社目までの明細がそれにあたります。
仮の計算例
実際の私の数字は、手当の内訳が確認できていないので出せません。そこで、基本給と所定労働時間に仮の数字を置いて、規模感だけをつかみます。
この試算の前提(仮の置き方)
基本給は現在の28〜30万円の中間として29万円、月の所定労働時間は160時間、割増率は時間外労働の下限である25%としています。簡略化のため、基本給だけで時給を出しています。実際の算定基礎に何が含まれるかは、会社の賃金規程で変わるので、あくまで規模感をつかむための計算です。
時給は29万円÷160時間で約1,813円、割増をかけると約2,266円になります。
仮の前提で出した、残業代が出ていたら受け取れたはずの月額。基本給を28万〜30万円で動かしても、約4.4万〜9.4万円の範囲に収まります。
比べる相手は、昇格による増加分です。3社目の離任時の基本給は26万9千円で、今は28〜30万円なので、基本給だけで見れば1万1千円から3万1千円の増加です。
ここには通常の昇給分も含まれるので、全部が昇格のぶんとは言えません。それでも、残業代相当額が4.4万〜9.4万円と置くと、基本給の増加だけでは埋まらない月があることは見えてきます。
あとは、管理職手当が付いているのか、付いているならいくらかです。これが、埋め合わせになるかどうかの分かれ目です。
基本給の増加には、賞与を通じた効果もあります
基本給が上がることは、賞与にも響きます。昇給の記事で整理したとおり、私の会社では賞与の算定基礎が基本給で、年間3か月分です。
基本給が1万円上がれば、賞与だけで年間3万円の差になります。残業代の損得を考えるとき、月次の給与だけで比べると、この分を見落とします。
昇給の決まり方については、別の記事に詳しく書きました。
一方で、手当は賞与の算定基礎に入らないことがあります。管理職手当が付いていても、基本給とは意味合いが違うので、明細では分けて見ておくのが無難です。
SESの管理職には、一般論では測れない事情があります
ここまでは、SESに限らない話でした。ここからは、客先に常駐して管理職になったときに、判断が難しくなる点を、私の経験から3つ挙げます。
出退勤の裁量は、客先のスケジュールに引っ張られます
管理監督者かどうかを見る観点の一つが、出退勤を自分で決められるかです。ところがSESでは、定例会議、客先の稼働時間、リリース対応といった予定が、自社とは別のところで決まります。
私の終業は定時〜20時の範囲で、日によって客先の依頼や課題の状況に左右されます。自分で決めているというより、現場に合わせて決まっているというのが実感に近いです。
この状態が、法的な意味での「裁量」に当たるかは、私には判断できません。ただ、少なくとも自社の管理職という立場が、客先での働き方の自由度をそのまま上げてくれたわけではありません。
勤怠は自社と客先に二重にあり、管理職になっても同じです
客先の入退館記録と、自社への申告が別々に存在する構造は、役職がついても変わりません。管理職になったからといって、客先の記録が自社に連動してくれるわけではないのです。
勤怠が二か所に分かれているために生じるずれの仕組みは、別の記事で整理しました。
私自身、昇格直後は、自分の出退勤を記録に残していませんでした。管理職は残業代が出ないのだから、記録しても意味がないと、無意識に思い込んでいたからです。
あとで述べるとおり、記録には意味があります。気づいてからは、出退勤の時刻を手元のメモに残すようにしました。
手を動かしながら3〜5名を見る、プレイングマネージャーの立場
管理職といっても、私は設計・実装・テストをこなしながら、3〜5名のメンバーを見ています。管理の仕事に専念できる立場ではありません。
職務内容の観点から見れば、現場の作業が大きな比重を占めています。それが、管理監督者としての実態の判断にどう影響するかは、私には分かりません。
ただ、手を動かす仕事が減らないまま管理職になった場合、責任だけが増えて、時間の余裕は増えない状態になりやすいと感じています。残業が月20〜40時間あるのも、この影響が大きいと見ています。
管理職でも、深夜割増は別の話です
もう一つ、押さえておきたい点があります。愛知労働局の資料では、管理監督者であっても、深夜業の割増賃金は適用除外にならないとされています(出典: 労働時間・休憩、休日の適用除外|愛知労働局)。
つまり、管理監督者に当たるとしても、22時以降に働いた分の割増賃金は別に問題になります。残業代がないから、夜間の対応も無給で当然、とはなりません。
私の終業は定時〜20時の範囲なので、深夜に食い込むことは今のところほとんどありません。ただ、リリース対応が年に数回あるので、その日だけは注意が必要だと考えています。
深夜の割増が出ているかは、役職とは別に、明細で確認できる項目です。夜間の呼び出しや待機の扱いは、SES保守の夜間呼び出しに手当は出るかにまとめています。
昇格を受ける前に、自社へ聞いておきたいこと
私の反省を踏まえて、昇格の話をされたときに聞いておくべき項目をまとめます。実際に聞くかどうかは、各自の立場や会社との関係で変わります。それでも、聞かずに受けるより、聞いて受けるほうが後で動きやすいと考えています。
昇格の話をされたら、聞いておくこと
- 管理職になると、残業代はどう扱われるのか(支給なしか、一部か、全額か)
- 管理職手当はあるのか。あるなら金額はいくらか
- 基本給は上がるのか。上がるなら、いくらになるのか
- 就業規則の管理職に関する規定は、どこで読めるのか
- 深夜や法定休日に働いた場合の扱いはどうなるのか
- 自分の勤怠は、これまでどおり自社の勤怠システムに入力するのか
聞き方は、不満をぶつける形ではなく、確認したい事実を並べる形が通りやすいと思います。たとえば次のような言い方です。
- 「管理職になった場合の給与の変更点を、書面で確認させてください」
- 「管理職手当と、残業の扱いについて、就業規則のどこを見ればよいか教えてください」
- 「昇格の前後で、月の総支給額がどう変わるのか、試算を出してもらえますか」
この3つのうち、書面での確認が特に重要です。口頭で聞いた内容は、あとから「そう言った覚えはない」となりかねません。雇用契約書や労働条件通知書、辞令など、書面に残る形で受け取れるかを、確認しておきたいところです。
明細の項目の見方に自信がなければ、SESの給与明細の見方を先に読んでおくと、手当の内訳を拾いやすくなります。契約書類の見方は、次の記事にまとめています。
すでに管理職になっている人が、今からできること
私のように、すでに昇格してしまっている場合でも、今から動けることはあります。順番に整理します。
管理職になってから、まず手を付けること
- 明細を昇格前後で並べる基本給、手当、残業代の項目を見比べると、何が増えて何が消えたかが分かります。
- 就業規則と賃金規程の管理職に関する条文を読む管理職手当の根拠や、残業の扱いが書かれている場所です。
- 出退勤の時刻を自分の手元に残す客先の記録とは別に、自分のメモを持っておきます。
3つ目の記録は、残業代の請求を想定しているというより、自分の働き方を後から検証するための材料です。管理監督者に当たるかどうかが問題になる場面でも、実際にどう働いていたかを示す材料になります。
私は昇格直後に記録を取らなかったことを、今も少し悔やんでいます。入場から数か月の間の出退勤は、記憶に頼るしかありません。
納得できないときは、社外の窓口もあります
自社に確認しても疑問が残る場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナーといった公的な窓口があります。窓口の種類や連絡先、相談に持っていくとよい資料は、残業代全般の記事にまとめました。
管理監督者に当たるかどうかは、個別の事情で判断が分かれます。この記事では、私が当たるともそうでないとも言えません。気になる場合は、記録と書面を持って、専門の窓口に聞くのが確実です。
まとめ
SESで管理職になると残業代が出なくなることは、確かにあります。ただ、自社の役職上の管理職と、労働基準法の管理監督者は同じではありません。判断は、肩書ではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇という実態で行われます。
- 肩書と管理監督者は別 名称にとらわれず実態で判断され、待遇が良いだけで実態のない役付者は含まれないとされています
- 私は4つの観点のうち、確認できているのは職務内容だけ 権限、裁量、管理職手当は未確認のままで、昇格時に聞かなかったことを後悔しています
- 昇格前後の収支は、自分で試算できる 仮の置き方で、残業20〜40時間なら月4.4万〜9.4万円ほどが、残業代相当額の目安になります
- 深夜割増は管理監督者でも別の話 22時以降に働いた分は、役職とは別に確認します
- 記録と書面が、後から動くための材料になる 出退勤のメモと、条件を書いた書面を手元に残します
昇格の話が来たら、基本給の上がり幅だけで判断せず、残業代の扱いと管理職手当の有無を、書面で確認してください。すでに管理職になっている方は、まず昇格前後の明細を並べてみるところから始めると、自分の位置が数字で見えてきます。
私もこの記事を書きながら、確認が済んでいない項目の多さを改めて実感しました。次の明細が出たら、手当の内訳を一行ずつ見直すつもりです。




