春に残業が続いた年の9月か10月の明細で、社会保険料の欄が前より増えていて首をかしげたことはありませんか。残業を頑張ったのに手取りが減った、という感覚です。
私は2社目で、残業が平均して月40〜60時間の現場にいました。残業が多い現場ほど、この仕組みは無関係ではいられません。
今回は、定時決定(算定基礎届)で4〜6月の残業代が社会保険料にどう効くのかを、公的な資料と2社目の条件を使って整理します。損か得かの断定ではなく、自分の明細で確かめる手順までをお伝えします。
この記事で分かること
- 定時決定で4・5・6月の報酬から標準報酬月額が決まり、9月から翌年8月まで使われる流れ
- 残業代は報酬に入り、年3回以下の賞与は入らないという線引き
- 標準報酬月額が1等級(2万円)上がると、毎月の本人負担がいくら増えるかの計算値
- 随時改定との違いと、昇給が4月のときに起きること
- 5月・6月・7月の明細と9月の明細を並べて、自分で確かめる手順
目次
定時決定で残業が社会保険料に効く仕組み:4・5・6月の3か月で決まります
先に結論を言うと、4〜6月の残業代は社会保険料の基準に入ります。ここでは、定時決定とは何か、報酬に何が入って何が入らないのかを順に見ます。
4・5・6月の平均で9月から1年間が決まります
定時決定は、毎年7月1日現在の被保険者を対象に、4月・5月・6月の3か月に受けた報酬の平均から標準報酬月額を決め直す手続きです。決まった額は9月から翌年8月まで使われます。会社が算定基礎届を出す期限は7月10日です。
平均の対象になるのは、4月・5月・6月のいずれも支払基礎日数が17日以上の月です(出典: 定時決定(算定基礎届)|日本年金機構)。
- 4・5・6月支払われた報酬を集計
- 7月会社が算定基礎届を提出(期限7月10日)
- 9月新しい標準報酬月額が適用開始
- 翌年8月この区分で1年間控除
報酬に入るものと入らないもの
日本年金機構の説明では、報酬は基本給のほか、残業手当や通勤手当などの各種手当を含みます(出典: 標準報酬月額|日本年金機構)。つまり、残業代は基本給と同じ扱いで平均に入ります。
一方で、臨時に受けるものや、年3回以下の賞与は報酬に含まれません。年3回以下の賞与は標準賞与額の対象です(出典: 標準報酬月額の対象となる報酬とは|日本年金機構)。2社目で出ていた賞与も、4〜6月の平均には入りません。
支払月で数えるので、締め日と支払日の確認が要ります
もうひとつ、見落としやすいのが「いつ払われた分か」です。報酬は、働いた月ではなく支払われた月で数えます。
たとえば残業代が翌月払いの会社なら、4月に払われる残業代は3月に働いた分です。自分の感覚では「4〜6月に残業した」のに、集計に入っているのは3〜5月分、ということが起きます。
自社が何月分を何月に払っているかは、賃金規程の締め日・支払日で分かります。ここを押さえておかないと、後で明細を突き合わせたときに数字が合いません。
標準報酬月額が1等級上がると、毎月の本人負担はいくら増えるか
等級が1つ上がると、保険料は月にいくら変わるのか。ここでは、協会けんぽ(東京)の令和8年度の料額表を使い、2社目の条件に当てはめて計算します。
令和8年度の料額表で見る等級の幅と増える額
協会けんぽ東京の令和8年度は、健康保険9.85%、介護保険1.62%(40〜64歳)、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%です(出典: 令和8年度保険料額表(東京都)|協会けんぽ)。厚生年金の標準報酬月額は、1級88,000円から32級650,000円までです(出典: 厚生年金保険の保険料|日本年金機構)。
表から、2社目の額面(平均28〜32万円)の近くにある2つの等級を取り出します。金額は本人負担分です。
| 報酬月額の範囲 | 標準報酬月額 | 健康保険 | 介護込み(40〜64歳) | 子ども・子育て支援金 | 厚生年金 |
|---|---|---|---|---|---|
| 290,000〜310,000円未満 | 300,000円 | 14,775円 | 17,205円 | 345円 | 27,450円 |
| 310,000〜330,000円未満 | 320,000円 | 15,760円 | 18,352円 | 368円 | 29,280円 |
この2行を引き算すると、1等級上がったときの月の増加額が出ます。
標準報酬月額が30万円から32万円に上がった場合の、本人負担の増加額(表から計算した値)。
年にすると、40歳未満で約3.4万円、40〜64歳で約3.6万円です。実際の天引き額は端数処理で数円ずれます。
この計算の前提
2社目に在籍していた当時の料率ではなく、令和8年度の表を使った計算値です。また、増えた分のうち厚生年金の月1,830円は将来の年金の計算に反映されるお金で、掛け捨ての出費ではありません。
2社目の条件に当てはめると
2社目の残業は平均月40〜60時間で、全額実費の支給でした。みなし残業はなく、働いた時間がそのまま残業手当になる形です。基本給は4月の昇給で+6,000円となり、額面の合計は平均して28〜32万円でした。
この条件で、4〜6月の報酬の平均が決まる流れを考えます。平均が29万円以上31万円未満なら標準報酬月額は30万円、31万円以上33万円未満なら32万円です。額面の幅が28〜32万円なので、残業が数時間多かったか少なかったかで、等級が1つずれる位置にいました。
つまり、春に残業が60時間近く続けば32万円の等級になり、40時間台なら30万円の等級にとどまる、という境目です。上の計算でいえば、その差が毎月約2,800〜3,000円になります。
ここまでは、条件から計算できる範囲の話です。実際にどの等級になるかは明細と届出の結果で決まるので、突き合わせる手順を後半にまとめます。
随時改定との違い:昇給は別の仕組みで見直されます
定時決定と並んで出てくるのが随時改定です。昇給や手当の変更で毎月固定の賃金が動いたとき、3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上ずれていて、3か月とも支払基礎日数が17日以上あれば、4か月目から改定されます。
残業のように月ごとに変わる賃金だけが増えた場合は、随時改定の対象になりません。なお、上限または下限にわたる等級変更では、1等級差でも対象になります(出典: 随時改定(月額変更届)|日本年金機構)。
残業が増えても保険料がすぐ変わらない理由
- 残業は固定的賃金ではない基本給や手当のような固定的賃金が動かなければ、随時改定のきっかけになりません。
- 反映は年1回にまとまる残業の増減は、翌年の定時決定でまとめて標準報酬月額に反映されます。
- 等級が動かなければ変わらない報酬が増えても、同じ等級の範囲内なら保険料は変わりません。
私の2社目の昇給は毎年4月で、基本給は+6,000円でした。この金額だけで2等級(4万円)以上ずれることは、通常は起きないので、随時改定にはなりにくい額です。
そして、4月に昇給した基本給は、そのまま定時決定の4〜6月の報酬にも入ります。昇給は随時改定ではなく、定時決定のなかで拾われる形です。
ここは、昇給の翌月に給与が上がる仕組みか、翌月払いかで反映の月が変わります。昇給後の基本給がいつの給与から適用されたかは、自社の規程で確認する点です。
社会保険料が上がると損なのか:手取りと将来の受け取りを分けて考えます
9月から保険料が増えれば、手取りは確かに減ります。ただし、損かどうかは手取りだけでは決まりません。
標準報酬月額は、保険料の計算のもとであると同時に、将来の年金額の計算にも使われます(出典: 標準報酬月額|日本年金機構)。等級が高いほど保険料は増えますが、年金額の計算に使われる記録も高くなります。
だから、「残業が増えたから社会保険料で損をした」とは言い切れません。残業が多かった年の保険料は確かに上がりますが、その一部は年金の記録として積み上がります。
一方で、手取りが月に3,000円前後減る事実は変わりません。損得の断定ではなく、手取りで減る額と、将来に積み上がる額を分けて見るのが現実的な見方です。
私の見方
残業は客先の稼働で決まるので、保険料を下げるために4〜6月の残業を自分で減らすことは、現場にいる立場ではまず無理です。減らせないものの結果が9月に出るだけなので、驚かないために仕組みを知っておく、というのが私の割り切りです。
5月・6月・7月の明細と9月の明細を並べて確かめる手順
仕組みが分かっても、自分の明細でどうなっているかは見なければ分かりません。ここでは、実際に確かめる順番をまとめます。
- 4・5・6月に支払われた支給総額を拾う残業手当を含む支給総額を、それぞれの月の明細から控えます。翌月払いの会社なら、4・5・6月に支払われた明細が対象です。
- 3か月の平均を出す3か月とも支払基礎日数が17日以上あれば、そのまま平均を取ります。17日未満の月がある場合の扱いは、労務担当に確認します。
- 料額表で等級を探す平均額が、どの報酬月額の範囲にあたるかを、協会けんぽ(または加入している健保組合)の料額表で見ます。
- 8月までの控除を控える7月・8月の明細で、健康保険と厚生年金の控除額を確認します。
- 9月以降の控除と比べる9月分が引かれる明細(多くは10月払い)で、同じ欄の金額が変わったかを見ます。
- 等級が合わなければ労務担当に聞く計算した等級と、実際の控除から逆算される等級が違うなら、「標準報酬月額が何万円で届け出られているか」を確認します。
控除は、自社が提出した算定基礎届の結果にもとづいて変わります。自分の計算と控除が合わないときは、労務担当に確認するのが早く、正確です。
9月前後の明細で確かめること
- 4・5・6月に支払われた報酬の平均が、どの等級の範囲にあるか
- 9月分以降の健康保険・厚生年金の控除額が、前の月と同じか
- 変わっていたら、その差額が料額表の等級差と近いか
- 欠勤が多く、17日未満の月が含まれていなかったか
- 自社が健康保険組合に入っていないか(入っていれば率が協会けんぽと違う)
健康保険組合に入っている場合、率は協会けんぽとは別です。その違いは福利厚生の記事で整理しています。
4月に現場が替わった年や待機があった年の確認点
ここまでは、4〜6月を同じ現場で過ごした前提でした。4月に現場が替わった年や、待機(アサイン待ち)があった年は、報酬が普段と違う形で出ることがあります。
現場が替わって残業の量が大きく変わると、同じ人でも3か月の平均が前年と違ってきます。待機で給与が減額される規程の会社なら、その月の報酬が下がり、平均も下がります。
ここで見るべき点は、自社の賃金規程で待機中や欠勤の扱いがどうなっているかと、4〜6月に支払基礎日数が17日未満の月がないかの2つです。仕組みは同じで、報酬が下がれば等級も下がりうる、ということです。
残業代の仕組みそのものは、こちらの記事で整理しています。
月の残業時間の上限と36協定の関係は、別の記事に書きました。
まとめ
定時決定は、4・5・6月に支払われた報酬の平均で標準報酬月額を決め、9月から翌年8月まで使う仕組みです。残業代は報酬に入り、年3回以下の賞与は入りません。随時改定は固定的賃金の変動が条件なので、残業だけが増えても対象外です。
2社目のように残業が月40〜60時間あり、額面が28〜32万円の幅にあると、残業の多寡で等級が1つずれる位置にいました。1等級(30万円から32万円)の差は、令和8年度の表から計算すると月2,838〜3,000円です。
持ち帰ること
- 4・5・6月の支給総額(残業込み)を、7月までに控えておく
- 残業代が何月に払われるか、自社の支払日を確認する
- 9月分の控除が変わったら、料額表の等級差と照らして確かめる
- 手取りの減少と、年金などの将来の受け取りを分けて見る
9月に保険料が増えるのは、4〜6月の報酬が1年分の基準になるからです。損と決めつける前に、5・6・7月の明細と9月の明細を並べて、何が動いたかを数字で言える状態にしてください。
明細の控除欄を項目ごとに読む方法は、給与明細の記事にまとめています。




