自分がいくらで客先に出されているのか、知らないまま働いているSESエンジニアは少なくありません。聞いてよいのかも分からないまま、更新のたびに営業から一行の連絡が届くだけ、という状況は珍しくないはずです。
私は1社目と2社目で、自社のリーダーや営業から単価を聞かされていました。今の4社目でも単価は把握できています。ただ、教えてもらえないのが一般的だと言われていることも分かっています。
今回は、単価は本人に教えてもらえるのかという点から、営業への聞き方、断られたときに自分で単価のレンジを逆算する手順までを、実体験を交えてお伝えします。
この記事で分かること
- SESの単価を本人に教える義務はなく、教えてもらえるかは会社と現場の裁量で決まること
- 誰に・いつ・どう言えば答えが返りやすいか、断られたときの返し方
- 聞けたときに確認すべき「その数字は何の数字か」
- 教えてもらえないとき、給与から単価のレンジを逆算する手順と、結果が大きくズレる理由
目次
SESで自分の単価を知る方法は、「教えてもらえるか」で二手に分かれる
最初に、単価を知る道が大きく二つあることを整理します。会社が教えてくれるなら聞く、教えてくれないなら自分で推定する、という二手です。
結論単価を本人に教えるかどうかは、会社と現場の裁量です。教えてもらえなくても不自然ではなく、聞き方を変えれば答えが返ることもあります。
私が単価を聞かされた場面
1社目では、現場に配属されてしばらくしてから、自社のリーダーに月55万円だと聞かされました。入社時の基本給は226,000円で、その場で「基本給と比べると、そんなに差があるのか」と思ったのを覚えています。
2社目は、アサイン時に年間490万円だと聞いていました。4月の更新で年530万円になったことも、自社のリーダーと営業から聞いています。
面白いのは、言い方が会社ごとに違ったことです。1社目は月額、2社目は年額で、同じ「単価」でも伝わってくる単位が揃っていませんでした。この違いが、後で説明する「何の数字か」の確認につながってきます。
私の場合
正直に書くと、私は単価を聞かされた側です。こちらから切り出して聞き出した記憶も、単価の交渉を持ちかけた記憶もありません。
だからこの記事の「聞き方」は、私が実際に使った台詞ではありません。聞かされた側から見て、聞くならこう言うだろうと想定した言い方だと理解したうえで読んでください。
教えてもらえないのは、普通のことです
単価を本人に開示する法的な義務は、SESにはありません。派遣には会社ごとのマージン率などを公開する義務がありますが、準委任契約が中心のSESにはその義務が及びません。条文を使った詳しい整理は、マージン率の記事に書きました。
会社が従業員に書面で明示しなければならない労働条件は、賃金や就業場所など自分自身の雇用に関することです。客先に請求している単価は、その項目に入っていません。労働基準法15条の労働条件明示について、厚生労働省は次のページでまとめています(出典: 労働基準法 労働条件の明示|厚生労働省)。
つまり、聞いて断られたとしても、会社が不誠実とは限りません。聞く権利ではなく、お願いベースの話だと割り切ったほうが、気持ちも楽になります。
単価を教えてくれない理由は、3つ考えられます
聞き方を考える前に、会社側がなぜ渋るのかを押さえておきます。ここは私が現場の内側から確認した話ではなく、業界でよく語られている説明と、そこに自分の見立てを足したものです。
単価を教えてくれない3つの理由(業界で言われる説明と私の見立て)
- 会社同士の契約情報だから契約の当事者は会社同士で、単価は取引先との機密に当たります。エンジニア個人に出す理由がそもそもありません。
- 取り分が見えてしまうから単価と給与を並べれば、会社の取り分が計算できます。説明を求められるのを避けたい、というのが本音の場合もあります。
- 給与や契約の交渉に火がつくから単価を知った本人が、給与を上げてほしいと言い出すことへの警戒です。客先に直接話が漏れることを恐れる会社もあります。
3つ目は、裏返すと使い道があります。「給与交渉の材料にしたい」と正面から言うと警戒されやすいので、目的を別の形で伝えるのがコツです。具体的な言い方は次のセクションで書きます。
なお、教えてくれない理由が単純に「営業自身が知らない」ことも、少なくありません。営業の持っている情報の範囲は、営業の役割を整理した記事に書きました。
営業やリーダーに単価を聞くときの、誰に・いつ・どう言うか
ここからは、聞くと決めた場合の実務です。誰に聞くか、いつ聞くか、どう言うか、断られたらどうするか、の順に見ていきます。
誰に聞くか
聞く相手は、自社の営業か、自社の現場リーダーです。私が聞かされた経路もこの二つでした。
客先の人には聞きません。客先は、自社が提示している金額の一部しか知らないことが多く、聞いたこと自体が自社との関係に響きかねないからです。現場の同僚に「いくらもらってる?」と聞くのも避けます。単価の話は、同じ会社の人に限定したほうが安全です。
自社のリーダーが単価を把握しているかどうかは、会社によって違います。リーダーが知らなければ営業に回してもらう、という段取りで構いません。
いつ聞くか
聞くタイミングで答えやすさが変わります。私が現実的だと考えているのは、次のような場面です。
- 契約更新の1〜2か月前(更新の前提が固まる時期なので、条件の話が自然に出る)
- 評価面談や昇給の話が出る時期(給与の説明と一緒に出てくる)
- 現場での役割が変わった直後(担当が増えたことを理由に切り出せる)
逆に、入社直後や参画直後は避けます。まだ何の実績もない段階で金額を聞くと、条件交渉の前触れに見えてしまうからです。契約更新の周期については別の記事にまとめました。
どう言うか
台詞は、前のセクションで触れたとおり、目的を添えて段階を踏むのが基本です。いきなり金額を聞くのではなく、答えやすい形から入ります。以下は、聞くなら私ならこう言うという想定の会話で、実際にあった場面の再現ではありません。
次の更新に向けて、自分の給与の水準感を確認しておきたいんです。今の案件の単価帯を、ざっくり教えてもらえますか。
単価はちょっと、お客様との契約なので出せないんですよね。
金額そのものでなくても大丈夫です。たとえば、この案件は会社の中で平均より上か下か、くらいは分かりますか。
ポイントは、金額から範囲、範囲から相対評価へと、聞く対象を少しずつ下げることです。金額を断られた時点でゼロにせず、答えやすい形に質問を言い換えると、返ってくる情報が増えます。
「中抜き」「ピンハネ」のような言葉は使いません。会社の取り分を責める口調になった時点で、答えが返りにくくなるからです。単価を聞く目的は、あくまで自分の位置を把握することだ、という姿勢を保ちます。
断られたときの返し方
それでも断られたときは、深追いしません。その場で引いたうえで、別の角度で情報を集める切り替えが現実的です。
断られたときに続けて聞けること
- 精算幅(稼働時間の基準)は何時間か
- 次の更新で、契約条件や体制に変わる点はありそうか
- 契約形態は準委任か、それ以外か
- 自社は何次請けの位置にいるか
- 自分の給与の見直しは、何を基準に決まるか
単価の金額が出なくても、この5つの中には答えてもらえるものがあります。営業の側も、「金額だけは出せない」と線を引いているだけで、周辺情報まで隠したいわけではないことが多いと感じています。
聞いたことで関係が悪くなった経験は、私にはありません。ただ、それは私が聞かされた側だったからです。こちらから詰めて聞いた場合の反応は分かりませんし、会社によって温度差があるとも思います。そのため、断られたらその場で引くことを前提にしておくと安全です。
単価を聞けたら、「その数字は何の数字か」を必ず確認する
運よく金額を教えてもらえても、それだけで安心するのは早いです。同じ「単価」という言葉が、会社や場面によって別の数字を指していることがあります。
私自身、1社目の月55万円も、2社目の年490万円も、税別か税込かを確認していません。今になって悔やんでいる点です。
単価を聞いたときに確かめること
- 月額か、年額か(1社目は月、2社目は年と、伝わる単位が違った)
- 税別か、税込か(税込なら、10%分が含まれている)
- 自分個人の単価か、チーム全体や案件の平均か
- 残業や超過精算の分は、含まれているのか、別なのか
- 精算幅(上下限の時間)はどう決まっているか
税込と税別の違いは、あとで逆算するときに効いてきます。税込の金額を税別だと思い込んで計算すると、還元率が実際より10%ほど低く出てしまいます。
聞いた単価を記録に残しておくのも大事です。その場のメモでも構いません。何年か後に別の現場の単価と比べるとき、記憶だけに頼ると、月額か年額かすら思い出せなくなります。
教えてもらえないときは、自分の給与から単価のレンジを逆算する
結論単価は、給与の総額と還元率の仮定があれば、レンジとして逆算できます。ただし、前提の置き方で1.5倍近くズレるので、1つの数字に絞らず幅で見るのが大事です。
教えてもらえなかった場合でも、完全に手がかりがないわけではありません。自分の給与は自分で分かるので、そこから逆に単価を推定する方法があります。
逆算の手順
手順は次のとおりです。難しい計算はなく、給与明細と電卓があれば足ります。
- 年間の給与総額を出す毎月の基本給と手当に12を掛け、賞与の年間額を足します。残業代の扱いは後で決めます。
- 会社負担の社会保険料を足すか決める会社が別に払っている社会保険料も、会社にとってはコストです。足すなら、本人負担分とほぼ同額で近似します。
- 還元率を仮定する還元率は、単価のうち給与として本人に渡る割合です。公的な統計はなく、ネット上で語られる60〜80%の範囲で幅を持たせます。
- 給与総額を還元率で割る割った答えが、年間単価の推定値になります。12で割れば月額です。
- 幅で見る還元率ごとの答えを並べ、レンジとして受け止めます。1点に決めません。
会社負担の社会保険料は、実感として本人負担とほぼ同じ規模です。私の3社目の離任前の明細では、支給総額約394,000円に対して、社会保険料(本人負担)は約55,000円で、支給総額の約14%でした。会社負担は雇用保険などの違いで少し上下しますが、同じくらいと見ておけば近似になります。
仮の数字で、レンジの幅を見てみる
イメージしやすいように、仮の人の数字で計算します。基本給25万円、手当1.5万円、賞与は基本給の3か月分という想定です。
年間の給与総額は、(25万円+1.5万円)×12か月=318万円に、賞与75万円を足した393万円です。会社負担の社会保険料を約15%と見て足すと、約452万円になります。
| 還元率の仮定 | 給与総額393万円から逆算 | 社保込み452万円から逆算 |
|---|---|---|
| 80% | 約491万円(月約41万円) | 約565万円(月約47万円) |
| 70% | 約561万円(月約47万円) | 約646万円(月約54万円) |
| 60% | 約655万円(月約55万円) | 約753万円(月約63万円) |
仮の人の数字による計算例。上段の組み合わせと下段の組み合わせで、答えは年491万円から753万円まで1.5倍ほど開きます。
同じ人の給与から計算しているのに、月41万円から63万円まで開きました。逆算で分かるのは、単価の金額ではなく「このあたりにありそう」という範囲だけです。
この幅がそのまま、教えてもらえなかったときの現実です。幅が広すぎて役に立たないと感じるかもしれませんが、逆に言うと、聞いた単価が幅の中のどこに入るかを見るだけでも、手応えは変わります。
私の2社目の数字で、答え合わせをしてみる
実際に聞いた単価があった2社目で、逆算がどのくらい当たるかを確かめました。4月の更新後、基本給は232,000円、賞与は年間約70万円、単価は年間530万円です。
2社目・4月更新後の数字。手当と残業代は含めていません。社保は約15%を上乗せしています。
基本給と賞与だけで見ると約66%、社会保険料の会社負担を足すと約76%でした。どちらも、先ほど置いた60〜80%の範囲に収まっています。
この答え合わせの前提
手当と残業代は除いています。2社目では残業が月40〜60時間あり、全額実費で支給されていましたが、その分が単価に含まれていたのか、別に請求されていたのかは確認していません。単価が税別か税込かも未確認です。この割合は目安として見てください。
逆算がズレる要因
答えが大きくズレる原因は、ほぼ次の3つに集約されます。逆算するときは、どれを選んだかを自分で把握しておくことが大切です。
| ズレる場所 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| 分母(単価)の前提 | 税込か税別か。税込なら10%分を差し引く必要がある | 税込を税別と見ると、還元率が約1割低く見える |
| 分子(給与)の範囲 | 会社負担の社保、賞与、残業代、交通費を含めるかどうか | 含める範囲で、答えが2割前後動く |
| 還元率そのもの | 会社の取り分や経費は公表されておらず、仮定でしかない | 60%と80%で、答えが3割以上開く |
賞与の扱いは特に差が出ます。月額だけで逆算すると賞与の分が抜け、単価を低く見積もってしまいます。賞与の仕組みは別の記事にまとめています。
逆算以外にも、単価を確かめる方法はあります
逆算は、自分の給与しか材料がないので精度に限界があります。ほかにも手はあるので、手間と得られる情報を比べながら、優先順位をつけて使います。
| 方法 | 分かること | 分からないこと | 手間 |
|---|---|---|---|
| 営業・リーダーに聞く | 金額、またはその周辺情報 | 断られたら何も出ない | 小 |
| 給与から逆算する | 単価のおおまかなレンジ | 正確な金額 | 小 |
| 何次請けかを調べる | 商流の深さ(上限の目安) | 具体的な金額 | 中 |
| 案件の公開単価と照合する | 同じ経験の人の市場での相場感 | 自社の契約金額 | 中 |
| 個別契約書を確認する | 契約の中身(見られれば) | 本人が見られないことが多い | 大 |
私なら、まず営業かリーダーに聞き、断られたら逆算し、そのレンジを何次請けかの情報と照合する、という順番を取ります。手間の小さいものから使い、外れたら次へ進むのが現実的です。
何次請けかは、設計書の表紙や質問票の往復など、現場で観測できる手がかりから推測できます。商流が深いほど単価の上限は下がるので、逆算のレンジを絞る材料になります。
公開されている案件の単価と照合する方法もあります。求人サイトやフリーランス向けの案件紹介サービスで、自分に近い経験の案件がいくらで出ているかを見る方法です。ただし、そこに出ている金額は社会保険や税金を自分で負担する前の金額で、民間サイトの数字は一次的な公的統計でもありません。自社の単価とそのまま並べず、あくまで参考にとどめます。
個別契約書を見せてもらえるかは、会社によって対応が分かれます。見られた場合に何が分かるか、見られなかった場合の代わりの手段は、個別契約書の記事にまとめました。
単価を知ったあとにできること、できないこと
単価が分かると、気持ちの上では納得感が変わります。一方で、知っただけで給与が上がるわけではありません。ここは、私自身の実感として正直に書いておきます。
私は1社目でも2社目でも、単価を聞いたからといって、交渉に動いたわけではありません。聞いて分かった差額が、どの会社のどの項目に充てられているのかは、今も把握していません。聞いたあとの数字の見方は、単価と手取りの記事に書きました。
では、聞く意味はないのかというと、そうは思いません。単価と給与の差が、自分で動かせる範囲なのか、会社同士の契約構造の話なのかを切り分ける材料になるからです。切り分けた先で、自分の単価がなぜ上がらないのかを考えるときの整理は、別の記事に書きました。
自分の位置を知る手段として単価を使い、それで何を判断するかは、次の更新や転職を考えるときに効いてきます。知ること自体がゴールではなく、次の判断のための材料集めだと考えると、聞き方や断られたときの受け止め方も落ち着いてきます。
まとめ
SESの単価は、本人に教える義務がありません。教えてもらえるかは会社と現場の裁量で、私は1社目と2社目で聞かされましたが、それは聞き方の成果ではなく、現場の運だったと考えています。
聞くなら、目的を添え、質問を段階的に下げていく言い方が現実的です。断られたら、精算幅や次の更新の見通しなど、周辺の情報に切り替えます。
この記事の持ち帰り
- 聞く相手は自社の営業かリーダー。客先や同僚には聞かない
- 金額を断られたら、レンジ・相対評価・精算幅・次の更新の見通しに言い換える
- 聞けた単価は、月額か年額か、税別か税込かを必ず確かめて記録する
- 教えてもらえなければ、給与総額÷還元率(60〜80%)でレンジを出す
- 逆算は、税込か税別か、社保や賞与を含めるかで大きくズレる。幅で見る
逆算で出る数字は、あくまで推定です。それでも、何も知らないまま更新の連絡を待つのと、レンジを持ったうえで聞ける範囲を広げていくのとでは、現場での立ち位置が変わります。
最初の一歩は、自分の年間の給与総額を電卓で出してみることです。数字を出してから営業に聞くと、聞く内容も具体的になります。




